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マネジメント

国のかたち、組織のかたち(13) 官僚機構のほころび

指導者たる者かくあるべし

 兵庫県知事のパワハラ問題

 兵庫県政が迷走を続けている。斎藤元彦知事によるパワハラ疑惑についての告発を、県議会が調査特別委員会(百条委員会)で審議され、県議会側は知事に辞職要求の動きを見せ、知事はパワハラの疑惑を否定し真っ向から対立している。

 疑惑を文書で告発した県幹部が公益告発者として認められず懲戒処分に追い込まれて自殺するに至っており、ことは深刻で実態の解明は急がれる。県職員のかなりの数が、知事にパワハラを受けた、パワハラ行為を現認した、と同委員会の調査に証言している。そうした行為が不法行為にあたるのか、知事が言う「適切な指導の範囲内」なのか、また、知事が視察先から手土産を要求したという「おねだり体質」にも焦点が当たっている。

 しかし筆者には、問題の背景に、二重の意味で、明治以来、日本の行政運営を支えてきた「官僚機構」の綻(ほころ)びが透けて見える。

 二重の意味でと言ったのは、一つは地方の行政機構のガバナンスの問題であり、もう一つは、知事の強引と見えるキャラクターを生んだであろう、中央官僚機構の歪みである。

 日本の官僚制度とは

 近代の官僚制度は、16、17世紀のヨーロッパで、諸侯の権力を制限し、国王を中心とする中央集権的な絶対王政が確立されるのに合わせて形作られた。王の下に集中した膨大な行政機構を運営するために、各分野に専門性の高い能吏を配置する必要に迫られたものだ。

 ドイツの社会学者、マックス・ウェーバーによれば、官僚制度は、職務において上下のヒエラルキー(階層秩序)をもち、ピラミッド型の組織となる。職務の指示は上意下従の絶対性を持つ。強いて言えば、軍隊組織、体育会系のスポーツ組織の特徴を備えている。軍隊なら抗命は禁じられ組織運用の効率は良いかもしれない。だが行政機構となれば、運用を間違えると有無を言わせぬ恐怖支配、意見表明の困難さを招いて組織は死んでしまう。

 日本において官僚制度の導入は、明治維新によって、天皇中心の中央集権国家が形作られたことに付随して整備されてきた。やがて幹部官僚養成機関として東京帝国大学が生まれ現在に至っている。

 中央官庁では、特殊な試験(現在では国家公務員総合職試験)の合格者を幹部候補生(キャリア)として採用し配置している。

 そのミニチュア版として、地方公共団体も官僚機構で構成されている。もちろん、知事、市町村長は、選挙を経て就任する政治家だが、中央官僚機構での、あるいは当該自治体での官僚実績が評価されて首長候補となることも多く、その場合、“国王”でありながら、“キャリア官僚”の体質も色濃く漂わせることとなる。

 組織の官僚化に注意を

 長々と官僚機構について書いたのは他でもない。知事の言動に官僚の色を強く感じるからだ。

 兵庫県出身で東大経済学部卒業後、キャリアとして総務省へ入省した。総務省は元自治省の流れをくみ、キャリアは、本省と地方自治体を交互に勤務し地方行政の経験を積み出世していく。彼も三重県、佐渡市、宮城県、維新府政下の大阪府に出向し実績を重ねた。

 一般に、中央官僚は30歳前後で初めて地方自治体に出向すると、いきなり課長職があてがわれる。たとえば警察官僚なら県警本部の捜査二課長、財務省なら税務署長として赴任する。受け入れ側では、将来の中央との関係を考えて、若くても下にも開かない扱いとなる。筆者の経験では、部下たちは、かげで皮肉をこめて「若殿様」と呼んでいた。そんな環境で甘やかされて育っていく。

 実績を積んだ斎藤知事は2021年7月の兵庫県知事選に、自民、日本維新の会の推薦で出馬し当選する。キャリア官僚は、「自分が日本を背負っている」との自負心が強い。さらに県民の付託を受けて、もはや怖いものがない。

 「合法的に」たるんだ職員を指導することに燃えたのかもしれない。職員を叱り飛ばすことがガバナンスだと勘違いしていたのかもしれない。

 県議会、県職員の強い批判を受けても知事に辞職の意思はなさそうだ。県議会最大会派の自民に続いて維新の会も知事に辞職を求めることを決めた。

 百条委員会の中継で知事の抗弁を見る茶の間の目は厳しい。何かおかしい。おかしさの背後に、この国を支えてきた官僚機構の綻びまで見るのは、穿(うが)ち過ぎだろうか。

 いや、組織の官僚化の弊害は、あなたの会社組織にも、どんな組織にも共通に忍び寄る。だからこそ、書いた。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

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