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第121話 米中貿易戦争下の中国経済の真実

中国経済の最新動向

 さる7月15日、中国国家統計局は今年4~6月のGDP成長率を6.2%と発表し、第1四半期より0.2ポイント低く、1992年以来27年ぶりに最低水準の記録を更新した。同日、トランプ米大統領はツイッターへの投稿で、中国経済の減速は米国による対中関税が「大きな影響」を与えている証しだと指摘した。

 

 トランプ氏の指摘は本当かそれとも嘘か? 換言すれば中国経済減速の真犯人は誰か? 米中貿易戦争かそれとも内需不振か? 本稿は入手可能なデータに基づき、客観的に検証する。

 

米中貿易戦争による直接的な影響は限定的

 純輸出、投資、消費は経済成長の三大要素と言われる。この三者は四半期別の中国GDPにそれぞれどれほど寄与しているか?図1は中国国家統計局の発表を基に、2018年3Qから2019年2Qまで三者の寄与度の推移を示すグラフである。

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出所)中国国家統計局の発表により沈才彬が作成。

 これによれば、2018年3Qの純輸出(輸出-輸入)の寄与度は▼9.8%、4Qは▼8.6%で、トランプ政権が発動した米中貿易戦争の影響が顕著だった。ところが、2019年になると、1Qの寄与度は22.8%、2Qは20.7%となっており、今年上半期の純輸出によるGDPへの寄与度はプラスに転換している。言い換えれば、2Qの経済減速は米中貿易戦争が直接に影響を与えたものではない。

 

 実際、今年1~6月期の輸出入実績から見ても、米国の対中関税の影響は限定的なものであることがわかる。中国税関当局の発表によれば、1~6月輸出は人民元ベースで前年同期比6.1%増、輸入は1.4%増、貿易黒字(純輸出)は41.6%増となっている。国・地域別で見ると、人民元ベースの輸出入総額は対EUが2・3兆元で前年同期比11.2%増、全体シェアの15.7%を占め、対ASEANが10.5%増の1.98兆元で、全体の13.5%を占める。一方、同期の対米国が9%減の1.75億元で、全体の12%を占める。ちなみに、対日本が1.7%増の1.03兆元で、全体の7%、「一帯一路」沿線国家が9.7%増の4.24兆元で、全体の28.9%を占める。主要国・地域のうち、対EUも対ASEANも大幅に増加しており、対米国だけが減少している。つまり中国は貿易構造の調整で米中貿易戦争の影響を最小限に抑えることに成功している。

 

内需低迷は中国経済減速の真犯人だ

 それでは中国経済減速の真犯人は誰か? 図1を見ればわかるように、内需低迷が経済減速の主な原因だ。GDPに対する消費の寄与度は2018年3Qの78.8%から今年2Qの60.1%に低下し、投資の寄与度も31.8%から19.2%へ減少している。

 

 内需低迷の典型的な事例は、新車販売台数の減少だ。中国汽車(自動車)工業協会の発表によれば、今年6月の新車販売台数は206万台で、前年同月に比べれば、9.6%減となっている(図2図3を参照)。昨年7月以降、新車販売は12カ月連続で減少を続け、自動車生産・販売台数統計が始まって以来、初めての出来事である。今年通年の実績も昨年に続き、2年連続で前年割れとなることはほぼ確実だ。

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出所) 中国汽車工業協会の発表により沈才彬が作成。

 

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出所) 中国汽車工業協会の発表により沈才彬が作成。

 

 自動車産業は裾野が広い産業で、関連分野を含むと中国GDPの1割以上を占める。自動車産業の景気低迷は中国経済全体に与える影響が大きい。

 

 消費低迷のもう1つの分野はスマホだ。中国信息(情報)通信研究院の国内携帯電話市場分析レポートによれば、今年1~6月中国スマホ出荷台数は1億7800万台で、前年同期比4.3%減、そのうち、今年6月の出荷台数は3322万台で前年同月に比べ5%減少している。自動車とスマホの消費低迷は、中国経済の下振れ圧力が強まっている裏付けと思われる。

 

 但し、中国の国内消費について、悪い材料ばかりではなく、明るい材料もある。例えば、今年6月小売総額の伸び率は前年同月比で9.8%増にのぼり、昨年3月以来の高い水準だ(図4を参照)。問題なのは6月の伸び率は一過性的なものなのか、それとも景気好転の兆しなのか?判断を下すのは時期尚早である。

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