先日、筆者は中国ビジネスフォーラム4月例会にて、「中国から見たトランプ政権と米中貿易戦争の行方」を演題に講演した。講演の中で、今月6~7日に米フロリダ州にあるトランプ大統領自身の別荘「マール・ア・ラーゴ」で行われた米中首脳会談の背景、成果及び米中関係の行方について詳しく解説した。本コラムでは、「米中首脳会談の舞台裏」という連載シリーズの形で、3回に分けて主な講演内容を紹介する。
●前代未聞の米大統領親子3代による習主席款待
習近平国家主席の訪米及びトランプ大統領との首脳会談をどう見るか?
今回、共同声明の発表や共同記者会見が一切ないにも関わらず、米中双方は揃って「成功した」と評価している。特に中国は、当初、習主席の訪米及びトランプ大統領との会談について、「首脳同士の信頼構築」、「米中関係の安定化」、「貿易戦争の回避」という3つの目標を設定したため、いずれも目標達成ができたとして胸を張っている。
まず「首脳同士の信頼構築」を見よう。トランプ政権は今回の首脳会談を極めて重視し、ホワイトハウス主導で周到な準備を行ってきた。トランプ大統領はメラニア夫人とともに別荘玄関で習主席夫婦を出迎え、初日の首脳会談、歓迎晩餐会、翌日2回目の首脳会談、主席と別荘内の散歩、ワーキング昼食会などを含めて約8時間を習主席と共に過ごした。一連のイベントを通じ、習主席とトランプ大統領は、互いに「相性チェック」し、2人は意外にウマが合うと言えよう。トランプ氏は今回の会談を高く評価し、「習主席と素晴らしい関係を築けたと思う」「非常に親密な絆をつくった」「非常に相性が良かった」と発言している。習近平氏も「長時間の会談で深くコミュニケーションができ、大統領と良好な関係を構築した」と評価している。結果的には首脳会談を通じて米中首脳同士の信頼関係が構築されたという見方は妥当だと思う。
ここに特筆すべきことは、トランプ大統領親子3代による習主席款待ぶりである。まさに「前代未聞」と言っても決して言い過ぎではない。初日の首脳会談と歓迎晩餐会の間、トランプ大統領は長女イバンカさんと娘婿クシュナー大統領顧問及び2人の孫を習主席夫婦に紹介し、5歳の孫娘と3歳の孫は習主席夫婦の前で、中国語で中国の人気歌謡「茉莉花」を披露し、中国の古典「三字経」と唐詩(唐の時代の漢詩)を暗誦した。トランプ大統領親子3代による外国首脳への款待は、米外交史上に前例がなく、米中首脳同士の信頼構築には大いに貢献したに違いない。
【写真説明】習主席夫婦の前で、中国語で歌謡「茉莉花」を熱唱し「三字経」と唐詩の暗誦を披露するトランプ大統領の孫と孫娘。長女イバンカさんと娘婿クシュナーさんも同席。-新華社
「米中関係の安定化」という中国側の目的も一応達成したと言える。首脳会談を通じ、「米中関係はとてつもない進展を遂げた」(トランプ氏)、「多くの重要分野でコンセンサスができた」(習近平氏)と、米中首脳は揃って米中関係の進展をアピールした。また、通商問題について、双方は貿易不均衡問題を一定期間内に是正する「100日計画」の策定で合意したと発表した。実際、トランプ大統領が4月12日に「ウォールストリート・ジャーナル」紙のインタビューで、今月中に発表する米財務省為替政策報告書について、「為替操作国リストに中国が入らない」と明言している。当面、米中「貿易戦争」が回避されたと見ていい。
首脳会談の具体的な成果は次の3つが挙げられる。1つ目は従来の米中経済・戦略対話を刷新し、(1)外交・安全保障、(2)経済全般、(3)法執行とサイバーセキュリティー、(4)社会・文化交流という4つの対話メカニズムを新設する。汪洋副首相と米財務長官・商務長官との経済対話、楊潔?国務委員と米国務長官・国防長官の外交・安全保障対話が始動した。
筆者が注目するのは米国務長官、財務長官、国防長官、商務長官など重要閣僚が揃って米中首脳会談に同席したことである。特にマティス国防長官の対話参加は意味が大きく、カーター前国防長官が在任2年間、訪中や中国要人との会談を拒否し続けた「反中」ぶりと好対照となった。
2番目の具体的な成果は、米中は北朝鮮の核開発問題が「危険なレベルに到達した」という認識を共有し、「相互に協力を深めて行くことで一致した」ことである。7日の首脳会談に続き、12日に習近平氏とトランプ氏は再び電話会談を行い、北朝鮮問題につき制裁措置を含む具体策を協議した。首脳同士の意思疎通が機能し、北朝鮮問題における米中衝突の回避に繋がる結果となる。
3つ目の成果はトランプ氏年内訪中の承諾である。実現すれば、首脳同士の相互訪問は常態化し、米中関係を安定化させる効果がある。
中国にとって、今年最大の政治イベントは言うまでもなく秋の党大会開催であり、成功確保は至上命令である。今回の米中首脳会談の成功は、結果的には習近平氏の政権基盤の強化に繋がる。これはトランプ氏の習近平氏に対する「お土産」であり、習氏は通商問題や北朝鮮問題でどう見返りをするかが注目される。(つづき)