景気減速が続く中、中国経済は二極分化の現象が起きている。製造業は鉄鋼をはじめ多くの分野で深刻な生産過剰に陥り、苦境が続く。一方、サービス業は旺盛な個人消費に牽引され、堅調さを保っている。産業別で明暗を分けた結果となっている。
◆強まる景気下振れ圧力
今年10月、筆者が代表を務める会員制組織・中国ビジネスフォーラムは中国視察団を派遣し、上海・杭州・無錫を訪問した。現地政府や企業の責任者の説明によれば、この3都市ではいずれも景気下振れ圧力が強まっている。
中国経済全体は景気減速が続いている。今年7~9月期のGDP成長率は6.9%でリーマンショック以来の低い水準である。特に輸出入の不振やデフレ圧力の増大など悪い材料が目立つ。
まず輸出入を見よう。図1に示すように、輸出は今年6月以降、5カ月連続
で前年同月を下回っている。輸入は今年に入ってからプラス成長の月が無く、11カ月連続でマイナスを続けている。輸出入の不振は経済成長の弱さを反映したものと見ていい。
デフレ圧力も増大している。今年8月を除けば、中国の消費者物価水準は前年同月に比べ、ずっと1.6%以下という低い水準で推移している(図2を参照)。卸売物価は3年以上マイナスが続いており、今年10月、11月はいずれもマイナス幅が5.9%に拡大。中国経済はデフレ圧力の増大→製品価格の下落→生産や投資不振→景気下押しという悪循環に陥る恐れが出ている。
◆「寒冬時代」を迎える中国の製造業
景気減速が続く中、中国製造業は深刻な生産過剰に陥り、厳しい「寒冬時代」を迎えている。次頁図3に示すように、中国製造業購買者指数(PMI)は今年8月以降4ヵ月連続で好不況の分水嶺である50を下回っている。
製造業のうち、特に厳しい局面に直面しているのは鉄鋼業界だ。中国政府の統計によれば、2014年中国の粗鋼生産量は8億2570万トンで世界の約5割、日本の7倍に相当する。粗鋼生産量の2割強は実際、過剰となっている。鉄鋼各社は自前の販売量を確保するため、価格の値引き競争を展開している。その結果、供倒れ現象が起き、減収減益の企業が続出している。
10月中国ビジネスフォーラム視察団の訪問先である上海宝山鋼鉄は、7~9月期決算で前年同期に比べて売上10%減少、最終損益も9億元(約171億円)の赤字に転落した。ちなみに前年同期は18億元の黒字だった。宝山鋼鉄のみならず、中国鉄鋼大手の河北鋼鉄、馬鞍山鋼鉄など、ほかの鉄鋼大手も相次いで減収減益に転落している。
減収減益の企業はほかの業種に広がっている。世界PCメーカー最大手レノボは今年4~6月期は大幅減益、7~9月期は赤字に転落。中国ビジネスフォーラム視察団の訪問先である婦人服大手の杭州漢帛国際集団や無錫市新長江実業集団なども今年減収減益の見通しとなっている。
◆堅調さを保つサービス業
ただし、中国経済は暗い材料ばかりではなく、明るい材料も出ている。苦境が続く製造業と違い、サービス業は旺盛な個人消費に支えられ、堅調さを保っている。
実際、今年10月中国の小売総額は前年同月に比べ11%増という年初来の最高の伸び率を記録し、11月はさらに11.2%増と記録を更新した(次頁図4を参照)。
新車販売台数も急回復を見せている。今年9月以降、3か月連続でプラスに転換し、10月は前年同月比11.8%増となっている。新車販売2桁増は昨年12月以来10ヵ月ぶりである。11月は20%増と更に急増している(図5を参照)。
住宅の販売価格も持ち直しの動きを示している。中国指数研究院によれば、中国100都市住宅価格指数は昨年5月以降12カ月連続下落を経験した後、今年5月にプラスに転換し、11月まで7カ月連続で前月を上回っている。
明暗を分けた製造業とサービス業。現実的に中国経済の大きな構造変化が起きている。輸出に依存せず、内需拡大へシフトする。ある意味で、これは望ましい方向に向かっているかも知れない。