トランプ氏は選挙期間中、中国の為替操作批判を繰り返し、米大統領就任後の今年2月も「中国は為替操作のグランドチャンピオン」と発言している。中国はトランプ政権に「為替操作国」に認定されるのか?この懸案事項は今年4月に山場を迎える。
そもそも「為替操作国」とは何か?アメリカ財務省は1980年代から毎年2回議会に対して為替政策報告書を提出している。それに基づき、対米通商を有利にすることを目的に為替介入し、為替相場を不当に操作している国に対して議会が為替操作国と認定する。為替操作国に認定された国は、アメリカとの間で二国間協議が行われ通貨の切り上げを要求される。またアメリカは必要に応じて関税による制裁を行う。1980年代から90年代にかけては、中国、台湾、韓国などが為替操作国に認定されたことがあるが、1994年以降、為替操作国に認定された国・地域はない。2016年4月、アメリカ財務省は為替介入をけん制するために為替監視リストを発表し、中国・台湾・韓国・日本・ドイツなど5カ国・地域が為替監視対象となった。同年10月にはさらにスイスを加え、監視対象は6カ国・地域に増えた。
今年4月下旬、アメリカ財務省はトランプ政権誕生後の初めての為替政策報告書を提出する予定となり、中国が為替操作国に認定されるかどうかが世界に注目される。
筆者は、中国が為替操作を行う根拠が乏しいため、トランプ政権に為替操作国を認定される可能性が極めて低いと見ている。理由は次の3つである。
第一に、中国はアメリカ財務省の為替操作国の認定基準を満たしていない。既存のアメリカ財務省の認定基準は次の3つの必須条件が含まれる。
(1)年間対米貿易黒字が200億ドル超
(2)経常収支の黒字額対GDP比で3%超
(3)年間為替介入金額(外貨購入額)がGDPの2%超
現在、中国は3つの条件のうち、(1)を満たしているが、(2)と(3)は基準に達していない。トランプ政権は中国を為替操作国と認定するには既存基準のハードルが高い。
第二に、為替操作を行うならば、通貨安が進行し、GDPに占める経常黒字と外貨準備高の割合が増える筈だが、実際、過去10年間、中国はいずれも逆の方向に進んでいる。2006年に比べれば、2015年時点の中国経常黒字対GDP比率は8.3%から2.9%へ、外貨準備高対GDP比率は38.4%から29.8%へと低下した。一方、人民元対米ドルレートは7.97元/1ドルから6.23元/1ドルへと21.9%の元高となっている。中国が為替操作に関するアメリカの法的定義に抵触する明確な根拠はない。中国を為替操作国に認定することは現実的に極めて難しい。
第三に、為替操作をして対ドルレートを低く抑えるためには、自国通貨を売り、米ドルなど外国通貨を購入し、外貨準備が増える筈だが、ここ数年、中国は人民安を食い止めるために外貨準備高を崩している。そのため、外貨準備高は2014年末の3兆8,430億ドルから17年1月末の2兆9,980億ドルへと大幅に減少した。言い換えれば、中国は元安誘導の為替介入ではなく、人民元下落を防ぐための為替介入を行っているのだ。トランプ氏の「中国が人民元を対ドルで低く抑えている」という発言は明らかに事実誤認である。
さらに、米中双方は今、習近平国家主席のアメリカ訪問及びトランプ大統領とのトップ会談の準備作業を急ぎ、早くも今年4月6、7日に実現される。双方の意思疎通と相互理解が強化され、米中関係の改善が期待される。これは米中双方にとっても、世界経済にとってもプラスになる。トランプ政権は、中国を為替操作国に認定するような、米中関係改善の環境作りを壊す行動を取ることが常識的に考えにくい。
要するに、トランプ政権が中国を為替操作国に認定するシナリオは、政治的にも現実的にも確率が低いと見ていい。