menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

人間学・古典

第53講 「帝王学その3」
大将たる者は、よく位を出でて分を犯す副将を斬らば難しからず。

先人の名句名言の教え 東洋思想に学ぶ経営学


【意味】

大将たる者の仕事は、職分を犯す副将を切り捨てさえすればよいことで、特別に難しいことではない。



【解説】
『宋名臣言行録』は、北宋初期から南宋中期の君主や官吏の言動をまとめたものですが、南宋の高級官吏であると共に儒者でもあった朱熹(1130~1200)が編纂したものです。朱熹(しゅき)は通称朱子、儒教の新体制である朱子学を確立した人物として有名です。


掲句は『宋名臣言行録』のもので、宋王朝の初代太祖:趙匡胤(ちょうきょういん)が軍を預けた曹彬(そうひん)に言ったものです。
帝太祖から江南地方の平定を求められた大将の曹彬は、自分には荷が重いと辞退をするのですが、対する副将の潘美(はんび)は自信満々です。このとき太祖はこの言葉をもって曹彬を励まし、一方では潘美の驕りを戒めたのです。


この種の話は孔子様の『論語』にもあります。
血気盛んな弟子の子路に「先生が戦いに出る時は、誰を連れて行きますか?」と質問され、孔子は「暴虎馮河、死して悔い無き者は我ともにせず」と答えたとあります。
弟子の子路としては、腕力に自信のある自分がいの一番に指名されると期待したのですが、孔子は「素手で虎に立ち向かい、大河を歩いて渡るような命知らずの無謀者と行動するのはご免だ」と答え、常日頃から血の気の多い子路の蛮勇を暗に戒めたわけです。


副将が個人的に勇敢であっても、時として組織の節度を乱す人間では、いざという時には獅子身中の虫になります。この虫とは、獅子の体内に寄生し恩恵を受けていながら害を加える虫のことです。
細かいことですが、組織上の地位の名称には留意が必要です。例えば、部長の次たる地位の者の呼称を、副部長とするか部長補佐役にするかは微妙な問題です。前者では部署内で副たる第二の部長という意識が先行しがちとなりますので、自信過剰型の副部長では部署内に両雄が存在しかねません。これに対して部長補佐役となれば役職名のままの補佐となりますから、遥かにその役割趣旨は浸透し部内のまとまりもよくなります。


どこの組織でも副部長にする理想の人材がいる訳ではありませんので、時としては組織センスの無い者や性格上ふしだらな者でも登用せざるを得ないこともあります。前者は自信過剰型・セクショナリズム型などの者で組織内を混乱させ、後者はギャンブル・酒席・色恋などの誘惑に弱い者で部下の信頼を失う恐れがあります。
こんな時は上司の部長が事前に当人と向き合い、「現状は未熟な面もあるが、それ以上に改善成長を期待しての登用」であることを伝えます。その後も時々の確認が必要になりますから、結果として部長と副部長が共に成長するとなれば、一石二鳥となります。


いずれにしても最後は「組織内の序列は、人物器量のダンゴにした大きさに置いて決まる」と言われますので、部長は日頃の人物器量の鍛錬をおろそかにはできません。
 

 

杉山巌海

第52講 「帝王学その2」 草創と守成といずれが難きや。前のページ

第54講 「帝王学その4」 これ官酒にして、敢えて相与えず。次のページ

関連セミナー・商品

  1. 社長の大義と実践経営

    音声・映像

    社長の大義と実践経営

  2. リーダーの心得 社長の経営洞察力篇

    音声・映像

    リーダーの心得 社長の経営洞察力篇

  3. リーダーの心得 好・不況時の社長心得篇

    音声・映像

    リーダーの心得 好・不況時の社長心得篇

関連記事

  1. 第16講 「言志四録その16」
    人の賢愚は、初めて見るときにおいてこれを相するに、多くを誤らず。

  2. 第23講 「言志四録その23」
    孔子を学ぶ者は、孔子の志を以て志と為すべし。

  3. 第103講 「論語その3」
    吾、十有五にして学に志し、三十にして立ち、四十にして惑わず。 五十にして天命を知り、六十にして耳に従い、 七十にして心の欲するところに従いて矩をこえず。

最新の経営コラム

  1. 第139回 定年後の再雇用と同一労働同一賃金

  2. 第167回 2025年のAI

  3. 国のかたち、組織のかたち(26) 民意のありか

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. マネジメント

    第41回 社員の幸せを考えるブレない経営とは?~事例:コマツ~
  2. キーワード

    第50回 「上野東京ライン」開業で関東4路線がつながる!~3.8キロ5分の&#...
  3. 採用・法律

    第11回 『「働き方改革」の年次有給休暇の確実な取得とは?』
  4. マネジメント

    第六十話 「基本をしっかり」(ランシステム)
  5. 税務・会計

    第45回 中小企業の経理DXは「IT導入補助金」を活用する|新設「デジタル化基盤...
keyboard_arrow_up