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採用・法律

第183回 在宅勤務時代の労働時間の管理

中小企業の新たな法律リスク

コロナ禍を機に広がったテレワークは、出社回帰の動きがある一方で、今も多くの企業で制度として定着しています。本稿では、目の届きにくいテレワーク勤務者の労働時間をどう管理すべきか、実務上の注意点を整理します。

 

高崎社長:コロナ禍をきっかけに一気に広がったテレワークですが、ニュースをみていると最近は出社に戻す会社も増えてきたように感じます。テレワークを導入し、制度として維持している当社としても、今後も継続すべきか考えているところでして…。

 

賛多弁護士:確かに、2022年以降、テレワークは減少傾向が続いています。もっとも、2025年時点でもテレワークを導入している企業は全体の50.1%に上り、最も多かった2021年の約51.9%と比べても、依然として一定の広がりを保っています(総務省「令和8年版情報通信白書」)。

加えて、令和7年4月に施行された改正育児・介護休業法では、3歳未満の子を養育する労働者や、要介護状態の家族を介護する労働者がテレワークを選択できるよう措置を講ずることが、事業主の努力義務とされました。

 

高崎社長:なるほど、テレワークを制度として維持する企業は少なくないのですね。ただ、私としては、目の届かないところで働く社員の労務管理が十分にできているのか、正直なところ不安もあります。

 

賛多弁護士:珍しいものではなくなった働き方だからこそ、それに適合した対応ができているか、改めて点検しておきたいところですね。

 

1 労働時間の管理

高崎社長:当社では、テレワーク中の社員には、始業時と終業時に上長へメールで報告させています。ところが、ある社員が終業報告のメールを送った後も、時間外に頻繁にメールの送受信をしていることが分かりました。

 

賛多弁護士:テレワークには、業務の効率化により時間外労働の削減につながるというメリットがある一方、会社から離れた場所で働くため、会社による管理の程度が弱まりやすいという指摘があります。そこで厚労省は、「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(「テレワーク指針」)を定めています。

同指針は、いわゆる「適正把握ガイドライン」(平成29年1月20 日基発0120 第3号)を踏まえ、①パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録、②労働者の自己申告による記録などにより、労働時間の管理方法をあらかじめ明確にしておくことを推奨しています。御社は②の方法を採っているわけですが、今回は、自己申告の時間と実際の労働時間とのズレが判明したケースといえます。

 

高崎社長:本人が申告した時間どおりに賃金を払っていれば、問題ないのではありませんか。

 

賛多弁護士:テレワーク指針も、本人による申告と実態が異なることを会社が認識していない場合には、申告された労働時間に基づいて上限規制を守り、賃金を支払えば足りるとしています。しかし今回は、すでに会社として乖離を把握していますから、その分を補正しなければなりません。また、パソコンのログなどの客観的な記録で時間外労働が証明されれば、従業員から実態に即した未払賃金を請求されることも想定されます。

 

高崎社長:具体的には、どうすればよいでしょうか。

 

賛多弁護士:まず、申告された時間外に勤務していないか、客観的な記録との食い違いがないかを定期的に確認すること。そのうえで、本人に適正な申告を促し、乖離があれば補正した賃金を支払うことです。あわせて、時間外のメールや電話を控えるルールを設けたり、時間外の社内システムへのアクセスを制限したりすることも有益です。

規程の面では、厚労省の「テレワークモデル就業規則」が参考になります。就業規則でタイムカードによる打刻を原則としつつ、テレワーク勤務者は「テレワーク勤務規程」に定める方法で勤務の開始・終了と業務の報告を行う旨を定め、勤務規程の側で、電話、電子メール、勤怠管理ツールといった報告方法を定めておく、という形です。

 

2 中抜け時間

高崎社長:もう一つ気になるのが、勤務時間中に長時間仕事から離れている社員がいるらしいことです。

 

賛多弁護士:いわゆる「中抜け時間」ですね。周囲の目が届かない以上、ある程度は生じるものです。法律上は、中抜け時間を把握することも、把握せずに始業・終業時刻のみを把握することも可能ですが、会社としては、長時間の中抜けを知りながら看過するわけにはいかないでしょう。

テレワーク指針は、①中抜け時間を把握する場合には、休憩時間として扱って終業時刻を繰り下げたり、時間単位の年次有給休暇として扱ったりする、②把握しない場合には、始業から終業までの時間を、休憩時間を除いて労働時間として扱う、という取扱いを想定しています。

 

高崎社長:休憩として扱うなら、単純に終業時刻を遅らせればよいのですね。

 

賛多弁護士:注意点が二つあります。一つは休憩の一斉付与です。休憩時間は、労働時間が6時間を超え8時間以内なら少なくとも45分、8時間を超えるなら少なくとも1時間与える必要があり、一部の例外を除き、事業所単位で一斉に与えるのが原則です(労基法34条)。

 

高崎社長:テレワーク中の社員にも、オフィスの社員と同じ時間帯に休憩を取らせるのが原則ということですか。

 

賛多弁護士:そうです。ただし、労使協定を締結して一斉付与の例外とする方法もありますので、実情に合わせて検討するとよいでしょう。

もう一つの注意点は、始業・終業時刻との関係です。一斉付与の休憩時間以外に中抜けしたり、所定の休憩時間を超えて中抜けしたりした場合は、その開始と終了の時刻を報告させて休憩時間として扱い、始業時刻を繰り上げるか、終業時刻を繰り下げることになります。ただし、始業・終業時刻を変更するには、就業規則にその定めを置く必要があります。モデル就業規則では、所定の休憩時間以外に業務を離れた場合は終業時にメールで所属長に報告させ、その時間分、終業時刻を繰り下げる、という規定例が示されています。

 

3 就業規則とテレワーク勤務規程

高崎社長:そうすると規程の整備が欠かせないようですね。

 

賛多弁護士:はい。テレワークの導入に伴って就業規則の変更が必要となる場合、テレワークに関する規定を就業規則本体に盛り込む方法と、別に「テレワーク勤務規程」を設ける方法が考えられます。後者の場合は、就業規則の適用範囲の条文に、テレワーク勤務に関する事項は別に定めるところによる旨を明記しておくとよいでしょう。

 

高崎社長:テレワークが当たり前になった今こそ、ルールを見直す必要があるということですね。

 

賛多弁護士:まさにそのとおりです。テレワークを行う社員の労働時間の実態を適切に把握し、明確なルールを整備・周知すること、そして制度と運用を定期的に見直すことが、業務効率の改善と適切な労務管理につながります。

―――

テレワークは依然として半数程度の企業が導入しており、育児・介護との両立支援策としても位置づけられています。企業がおさえるべきポイントはいくつかありますが、①自己申告と客観的記録の照合による労働時間の適正な把握と賃金の補正、②中抜け時間の取扱い(休憩扱い・時間単位年休など)のルール化、③就業規則やテレワーク勤務規程の整備と周知、の3点は特によく問題となります。制度を「導入して終わり」にせず、運用実態に合わせて定期的に見直していくことが、適切な労務管理と生産性向上の両立につながります。

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 塚越 幹夫

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