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ビジネス見聞録

講師インタビュー「スピーチの秘訣」ソニー歴代トップのスピーチライター佐々木繫範氏

ビジネス見聞録 経営ニュース

社長は会社の顔であり、社長ほど話すの場の多い仕事はありません。社長が聴衆を魅了し、人を動かす発信力を高めるスピーチのやり方のポイントを元ソニー歴代トップのスピーチライター佐々木繁範氏にお聞きしました。
■佐々木繁範 氏(ささきしげのり)/ロジックアンドエモーション 代表取締役

1963年福岡県北九州市生まれ。87年同志社大学経済学部を卒業後、日本興業銀行に入行。90年ソニー株式会社入社。盛田昭夫会長の直属スタッフとして財界活動を補佐、その間にスピーチ・ライティングを学ぶ。95年から97年までハーバード・ケネディ・スクールに留学、公共経営学修士号を取得。帰国後、2001年まで出井伸之社長の戦略スタッフ兼スピーチ・ライターを務める。ソニーでは計100本以上のスピーチ・サポートを手がけるとともに、IT戦略会議の議長補佐として、IT国家戦略の策定にも携わる。パーソナルオーディオ部門事業戦略部長、グローバル戦略部長を経てソニーを退社。その後、複数の事業会社にて経営改革に携わり、09年に独立。これまでに、1万人以上のビジネスリーダーを対象にリーダーシップ・コミュニケーション講座を提供するとともに、政財界のトップリーダーへの個別コンサルティングを行う。著書に『思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書』(ダイヤモンド社)、『なぜ、優れたリーダーは失敗を語るのか』(PHP 研究所)、『ソニー歴代トップのスピーチライターが教える 人を動かすスピーチの法則』(日経BP社)がある。


スピーチは飛び道具である

Q:リーダーほど話す場の多い仕事はないと言われます。社長にとって「話す」とはどのような役割があるのでしょうか

 スピーチというのは、「飛び道具」です。飛び道具とは何かというと、一気に大勢の人たちに影響を与えることができるということです。10人でも20人でも30人でも50人でも100人でも1000人でも、さらには1万人でも、とてつもない数の人たちに一気に影響を与えることができるのです。これがスピーチが持つ力です。社長にとって、その飛び道具を上手に活用できるかどうかというのは、本当に大事なことになります。

 コロナによって多くの企業はこれまでと違う経営のあり方が求められています。そのような時に社員の人たちの気持ちを一気に変えていけるのは、社長しかおりません。これからどう変わっていくのか。トップが伝えるスピーチというのは、本当に重要な手段になるのです。

Q:スピーチをしてもうまく社員に伝わらないという悩みをお聞きします。伝わるスピーチのポイントを教えてください

 スピーチが伝わらない。いろんな問題があるのですが、要は、何を伝えたいのかという事を自分で把握しているかということです。
 これはメッセージが明確であるのかということです。何を伝えたいのかわかっていない中で、どんなに話をしても、相手にはうまく伝わらないですね。今日はこのことを社員に伝えようという、その自分の考えを明確にクリアにしておくということがとても大事です。自分の言いたいことだけを言っていても、相手には伝わらないということです。社員は社長さんに対して、「はい、はい」とは言うでしょうけれども、社長が言いたいことだけを言っていても、ほとんど全部頭の中に残っていないわけです。目の前にいる人たちが本当にどんな気持ちでここに臨んでいるんだろうかいうものをしっかり理解したり、共感しようとするという、この姿勢が大事です。そんな人たちがもっと前向きに、もっと元気になれるためには、自分がどのように語りかけ、どのように接したらこの人たちは、みんなもっと輝けるだろうか。もっと生き生きとできるだろうか。という、そんなことを考えながら、話をすると、もっとうまく伝わるのではないかと思います。

相手のためにどんな貢献ができるのか

Q:人前で話すのが苦手という方は何から始めればいいでしょうか

  どうも人前で話すのが苦手、ちょっと緊張をしてしまって、あんまりうまく話せないというような方ですよね。多いと思います。そういう方々に共通していることがあります。それは何かというと、自分がどういうふうに見られているかということをちょっと気にしすぎているということです。つまり、自分が何かあんまりわかっていないんじゃないかと思われるのが嫌、もっとちゃんと自分はしっかりしているんだということをアピールしたい。そんなふうに思ったときに緊張してしまうんですよね。

 それに対して、逆のアプローチをするのです。自分がどう見られるかじゃなくて、自分は相手に何を与えたいのか、相手のために、自分が何の貢献ができるんだろうかという、その相手のために自分が何を与えられるかという、その視点で見てください。そうすると、つまり自分がどう見られたって関係ないよと。それよりも、困っている相手に対して、自分に何ができるのかという、それを一生懸命やろうとすると、結果として、素晴らしいスピーチ、メッセージが伝えられるわけです。つまり、スピーチというのは「言葉のプレゼント」です。どんなプレゼントを相手に与えられるか。相手が欲していることや相手が困っていることに対して、自分が何ができるのか。そこに意識を持っていくと、苦手意識も起きず、自分がどう見られるとかも関係がなくなるのです。

 

Q:スピーチ原稿はどのようにつくればいいのでしょうか

  ほとんどの人たちがスピーチってどういうふうにつくればいいのかということを習ったことがないと思います。そういう教育は世の中で、ほとんどありません。ですので、多くの人たちは、思いついたことを書き連ねていきながら、あとで見返してみて、これでいいんだろうかといつも不安を感じながら、スピーチに臨まれていられるのかと思います。

  それに対して、今回の講座「スピーチの秘訣」をしっかり勉強していただいたら、「あ、これか」という、具体的なモデルとステップというのが明確にわかっていきます。まず、それは何かというと、スピーチの構成です。3つの部分で構成していきます。オープニングとボディとクロージングという、この3つの大きな部分で構成していきますよということですね。そして、それぞれの役割。どんな目的で、どこに気をつけていくのかということも、その中で具体的にカバーされています。だけど、そのオープニング、ボディ、クロージングの形がしっかり整っていればそれでいいかというと、そうではなくて、実はその前のステップが大事なんです。つまり、「相手を知る」ということです。相手を知る。つまり、スピーチの主催者、あるいは場の目的があるわけです。その場の目的は何なのか。

 その人たちにどんなふうにその人たちが変化してくれると幸せになれるだろうなというのを考えるわけです。じゃあ、そのために自分は何ができるだろうかと考えていく。そこでメッセージ。自分の一番伝えたいメッセージというものがわかっていきます。これを話すためにはこんな構成にしようというのは出ていくわけです。この一連の流れが理解できるとスピーチに対して、自信を持って向かっていくことができると思います。ぜひ、「スピーチの秘訣」を聞いてしっかり学んでいただきたいと思います。

Q:話す時の姿勢、立ち居振る舞いなどのポイントを教えてください

 メッセージを伝えるときには、言葉と体。この2つでメッセージを伝えているわけです。ですので、スピーチの中身は言葉ですよね。1つは、体で相手にメッセージが投げかけているわけです。例えば、まったく無表情でスピーチを淡々としていると、相手には無表情から醸し出されるなんとなく関心のなさとか、熱量の低さというのが見えていくわけなんです。大事なことは、表情にも、声にも、身ぶり手ぶりにも、実はそこから多くのメッセージが相手に届くということです。じゃあ、どうすれば体のメッセージが相手にとって非常にいいものになっていくのかということなんですけれども。それは、ちゃんと心を込めて自分のスピーチの言葉を紡いでいくということです。相手のことを本当に思いやって、相手に対して、自分がこの言葉のプレゼントをするんだという、そんな気持ちでスピーチを準備したときに、言葉と自分の体のメッセージというものが完全に一直線に一致していくんですね。そのようなときに、非常に生き生きとした言葉に魂がこもったスピーチになっていきます。体のメッセージというのも非常に生き生きとした素晴らしいものになっていくんじゃないでしょうか。



Q:話すとつい長くなってしまうという方はどのように工夫するべきでしょうか

 そういう方には2つの特徴があります。1つは、要は何を言いたいのか。つまり、メッセージはなんなのかという、あまりそんなことを考えたことない方です。つまり、どんな話にも要は何を言いたいのかって、一言でまとめることができるんです。

 ですので、話がつい長くなってしまう方は、自問自答してください。一言で言って何を伝えたいのかということです。そのことを自問自答していく中で、だんだん、ああ、そうかこういうことを言いたいんだなというのが明確になっていきます。話の長い人の多くの場合、一言で言って、何て言いたいんですかと言われると、そんな一言で言えるわけないじゃないという反応を必ずします。

 だけど、必ずできるんです。できてないのは今までそんなこと考えたことがないからなのです。なので、ぜひ言いたいことを一言で言う。そういう意識で考えをまとめていただくといいと思います。

 2つ目の特徴というのは、相手が一体どんなことを求めているのかとか、どんなことを期待しているのかという相手の立場で考えていくということです。そうすると、自分が何を話すと相手の役に立てるのかなというのはわかっていきます。その視点がないと、ついつい自分の意見とか、自分の考え、自分の説明が全部相手の役に立つだろうと思ってしまい、長い話をしがちになります。

 実は、私も昔はそんなタイプだったのです。ソニーで盛田会長のかばん持ちをすることになったときに、私の上司に徹底的に絞られました。そのトレーニングがあって、初めてそれができるようになったわけです。もう一度言いますと、つまり相手が何を求めているのかというのをまず知ろうとするという努力。そして、もう一つは、自分が言いたいことを、要は何が言いたいのか。一言で言うと何なのかというのを自問自答しながら、考えを研ぎ澄ましていくということです。

 

Q:話す場の多い社長の方々にメッセージをお願いします。

 このコロナ禍でトップとしてのかじ取りとか、新しい方向性というものを示していかないと、なかなか社員側からの変化というものは難しいのではないかと思います。こんなときだからこそ、トップのスピーチの重要性というのがますます高まっているのではないかと思います。ですのでこの講座を通じて、皆さんのスピーチ力をさらに高めていただきたいなと思っています。

 少し具体的な話をすると、いわゆるこれまで長年にわたって会社を引っ張ってこられたトップの方、もしかするとご子息の世代に社長職を渡して、会長の立場にいらっしゃる方も多くいるんじゃないかと思います。その方々は、ぜひ経験を通じて学んだ教訓を伝えていくという、体験談をどんどん語ってほしいと思います。それに対して、今度は新しく会社を受け継いで、これからリードしていく立場のトップの方々には、自分の考えなり、会社の方向性をいかにわかりやすく論理的に整理をして伝えていくのかという、その部分がまず大事になっていくかと思います。

 社長のスピーチというもので、自分たちの事業の会社の理念、事業にかける思いというものをしっかり世の中に発信して多くの人たちを感動していくことができたら、それがきっかけとなり、より多くのお客さまを惹きつけたり、あるいは、より多くの世の中を動かしていくことができます。ぜひスピーチの力をさらにさらに磨いてほしいと願っております。

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