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- 中小企業の新たな法律リスク
- 第15回 『消費税率引上げ直前!増税分をちゃんと転嫁できていますか!?』
部品加工業を営む佐藤社長は、令和元年10月1日からの消費税率10%への引き上げにあたり、販売価格に増税分を上乗せした価格に改定したいが、販売先がこれに応じてくれるのか心配していました。
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佐藤社長:いよいよ令和元年10月1日から消費税率が引き上げられますね。しかし、最近は原料の仕入価格が高騰していることに加え、さらに仕入先から消費税率の引上げに伴う価格改定の連絡がありました。そこで、当社も、これから販売先に、販売価格を上げてもらえるようお願いに行くのですが、応じてもらえないと原価割れになってしまいます。
賛多弁護士:ご心配いりません。消費税率引上げ分を上乗せした価格を合理的な理由なく買い手が拒絶することは「買いたたき」として法律で禁止されています。
佐藤社長:そうなんですか。ただ、当社は販売価格を「部品1個 100円(税込)」と税込価格で定めているのですが、税込価格であることから価格を改定してもらえないのではないか不安です。
賛多弁護士:原材料費の低減等の事情がないにもかかわらず、税額が明記されていない税込金額であることを理由に、100円(税込)には既に消費税10%分が含まれているとして買い手が価格の上乗せを拒絶することは許されません。
佐藤社長:それは安心しました。
賛多弁護士:消費税率が5%から8%に引上げられたときに価格はどうなされたのですか。
佐藤社長:変えませんでした。その頃は、原料の仕入価格が今ほど高くなく当社も利益が出ていましたし、取引先にもいい顔をされないと思い、値上げの要請をしなかったので仕方ないです。
賛多弁護士:取引先からの価格引上げの要請や価格交渉の申出がないことを理由に価格を据え置くことも違法ですよ。
佐藤社長:そうなんですか!?では今回は前回分も含めてきっちりと増税分を乗せてもらうよう要望してまいります。
賛多弁護士:万が一取引先が上乗せを拒絶するようであればご相談くださいね。
佐藤社長:ありがとうございます。頼りになります。
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令和元年10月1日から消費税率が10%に引き上げられます。これに伴い消費税転嫁対策特別阻止法のガイドラインが改正されました。
消費税転嫁対策特別措置法は、商品の買手や役務の受け手が消費税の転嫁を拒絶する行為を禁止しています。禁止される行為は、①減額、②買いたたき、③商品購入、役務利用又は利益供与の要請、④本体価格での交渉の拒否及び⑤報復行為です。これらを行った場合、公正取引委員会等により指導・勧告がなされます。実際にこのような行為を受けた場合は、公正取引員会や事業所管省庁もしくは弁護士にご相談ください。
今回の改正ガイドラインでは、過去の指導・勧告の中でよく見受けられた違反行為(会話内で紹介した買いたたき行為)を明確化するとともに、標準税率が適用される商品を納入する取引先が自己の供給する商品が軽減税率の対象品目であることを理由として価格の上乗せをしないことも買いたたきに該当すること等が明確化されました。
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 北口 建