最近、中国政府の野心的な「中国版マーシャルプラン」構想が浮上している。
かつてアメリカが実施したマーシャルプランは戦後欧州の衰退を食い止めるとともに、米国市場と米ドルの価値を高めた。中国も今、豊富な外貨準備や資金を活用して、余剰生産能力の消化やインフラ整備技術の海外輸出を進めようとしている。それとともに人民元の国際化も図る。中国メディアはこれを「中国版マーシャルプラン」と呼ぶ。
「中国版マーシャルプラン」戦略の基盤となるのが、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)と、「一帯一路」(シルクロード経済帯+21世紀海上シルクロード)構想である。前者はBRICS銀行とともに資金面をサポートし、後者はこれら資金の活用範囲を広げる。
今年10月24日、中国及びシンガポールなど21カ国のAIIB参加国の代表が北京に集まり、同銀行の設立に関する覚書の調印式に出席した。AIIBの出資規模は1000億ドルで、そのうち中国が500億ドルを出資し、残る500億ドルはシンガポールなど20カ国が分担する。本部は北京に置かれ、2015年末までに運営開始も決まっている。
シルクロード経済圏構想も実現に向けて、具体化の第一歩を踏み出した。11月8日、中国とバングラデシュ、タジキスタン、モンゴル、パキスタン、ラオス、ミャンマー、カンボジアなど、APECに加盟していない7カ国の首脳との国際会議が北京で開かれた。習近平国家主席が議長を務める「相互接続パートナーシップ強化対話会議」と名付けた初めての会議で、シルクロード構想の要に位置する国々を集めた。習氏はこの会議で、中国が400億ドルの「シルクロード基金」を創設すると表明した。周辺地域の鉄道やパイプライン、通信網などのインフラ整備を支援する。
AIIBによる融資に加え、シルクロード基金を通じて中国がより直接関与する形で資金援助を実施する。豊富な資金力をテコに、米国の意向に左右されにくい広域経済圏を構築する考えである。
中国の狙いは、最大の貿易相手であるEU(欧州連合)につながる地域への影響力を強め、中東や中央アジアからの資源輸入の輸送ルートを万全にすることにある。中国国内で生産過剰に悩む国有企業の海外進出を後押しする思惑もある。中国にとって、「中国版マーシャルプラン」は国内の産業構造を改革し、高速鉄道や原発などの産業を強化する好機となる。一方、中国の支援は、鉄道、道路、電力、通信などインフラ整備の建設能力に乏しい新興国、途上国にとって大きな魅力がある。「中国版マーシャルプラン」は「WIN-WINを狙う構想」だと、中国側がアピールしている。
「中国版マーシャルプラン」戦略はアメリカによる一極支配を打破し、日米欧主導の既存国際金融体制に挑戦する思惑は明白である。そのため、アメリカは中国主導のAIIBやシルクロード基金を警戒しており、米の同盟国である日本、韓国、オーストラリアも現時点では不参加を表明している。
日本はアジア通貨危機直後、日本主導の「アジア通貨基金」構想を打ち出したが、アメリカの反対で頓挫した。今回、中国主導のAIIBについて、日本は実に複雑な思いを持っている。アメリカの働きかけで、日本は当面、参加しない方針だが、傍観だけで本当に良いのかが疑問視される。将来的には韓国もオーストラリアも参加するだろうと予想される。仮に日本だけが参加拒否の姿勢を続けば、アジアで孤立する恐れがある。従って、日本はAIIBに関するネガティブ発想を転換し、ポジティブに加盟国となり、内部から日本の影響力と金融ノウハウを生かし、独特な役割を果たす方が日本の国益にかなうのではないかと思う。