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120軒目 「東京和食 五十嵐」

大久保一彦の“流行る”お店の仕組みづくり

 今月は、六本木の交差点にひっそりと、でもネット上では騒然とオープンした『五十嵐』を紹介しましょう。30年和食店を研究してきた“友人”の通称“クロダンボネ”(以降、ダンボネ)氏が満を持してオープンさせました。割烹でもなく、料亭でもなく、新しいスタイルの“東京和食”で、新しい風を吹き込みました。
 まず、予約の仕方がユニークです。予約をするには、まずFacebookでダンボネ氏と友人関係になる必要があります。そして、初回の予約は一人のみで、来店して共感した客人は2名まで予約をすることができます。店と客人は本来、フィフティフィフティ。生きる糧を得るためにふさわしくない客人にこびて、店の雰囲気を壊すのであれば、敢えて客人を選び、生涯の友となる客人は心地良さを感じません。そのため、ダンボネ氏は、よい雰囲気を作ることに心意気ある姿勢で臨んでいます。例えば、誰も求めてないのに何故か場を仕切ろうとする人、誰も聞いてないのに自分がグルマンであることを誇示しようとする人、ワイワイガヤガヤばか騒ぎすることだけが店の楽しみ方だと思っている人、自分の価値観を店に押し付けようとする人、酔っ払って気が大きくなってしまう人、このような人で目に余る場合には、お代をいただかず、お帰りいただくのだそうです。その心意気は半端ではないです。そのたった一人のせいでその夜の雰囲気が台無しになってしまいますからね。
 
 さて、お店に入りましょう。見たこともない一枚板の扉を開けるとそこには四方漆喰で仕上げた非日常の異空間が広がります。贅をこらした漆喰の壁の息吹を感じ、心からくつろげます。その空間で永遠の友達となる店主ダンボネ氏が熱く語ります。(何を語ったかは中略とします)
その空間で、洗練された食を楽しみ、くつろぎ、リフレッシュして、エネルギーをチャージしてまた普段の生活に戻っていただく、それがサンボネ氏の想いなのだと想います。
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 さて、『五十嵐』劇場の幕が開きます!
こちら『五十嵐』のコース料金は4万円(税別)。この料金にアルコールサービス料込みという大サービスです。この空間でこの価格設定はオーナーのダンボネ氏がポケットマネーで始めたからできることで、永遠の友達に喜んでいただこうという気持ちが伝わります。
 
 最初に供せられるのは一番だしです。「これが『五十嵐料理』の原点」で「『五十嵐』のスペシャリテ」とダンボネ氏が豪語します。じっくり水出しした利尻昆布に削りたての鰹を入れてさっと出汁を引き、まったく味をつけていなそうです。温度にも細心の注意を払っていて86度弱まで加熱してできるだけ速やかに提供します。『五十嵐』がこだわる後をひく旨さの余韻というキーワードをこめたスタートです。
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 二皿目は、焼きふぐ白子の茶碗蒸しです。炭火でじっくりと火を通したふぐの白子の白と黒と緑のコントラストが鮮やかで見ただけで食欲をそそります。緑は、新若布のすり流しです。そして、飾りとしてだけではなく、味わいの上でもいい役割を果たしているのがキャビアです。余韻ある味わいで、美的センスは器だけでなく、料理の味わいとしてもすばらしいです。私も、料理屋の家庭教師をするときに、力を入れる茶碗蒸し、とても勉強になりました。あわせるお酒は雄町100%の「磯自慢 純米大吟醸」です。
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 テンポよく三つ目のお皿が供せられます。
焼き蛤と焼きミル貝の春菜ゼリー寄せです。
 二品目が濃厚な味わい温かい白子であったため、三品目はすっきりと春野菜や山菜のお浸しにして緩急をつけています。まずは、上に重ねた炭火焼きの蛤とミル貝をいただくと貝独自の深い味わいを感じます。あしらった野菜は、シンプルな味付けなのかと思いきや、かなり複雑です。聞けば、蕨は出汁、醤油、味醂でさっと炊き、こごみやたらの芽は湯通して塩をふってバッテラ昆布で昆布締め、違う調理アプローチをして、最後の合流。下には春菜と柑橘ゼリー。
おお、これはいつぞやライヨールの『ミッシェル・ブラス』にレンタカーを飛ばして食べに行ったあのアプローチですね。昨今は鶯菜の皮も剥いていない店が多い中、誰も気づかぬ見えないところに手間をかけています。この料理は、食べ歩いた美食家を唸らせるだけでなく、長いおつきあいで未知を既知にするという自身の“伸びしろ”を伸ばしてくれる料理だと想います。すばらしい。
私の塾では、料理人の塾生に「味のわかるお客はいないと思え!」という経営哲学を示します。
この言葉にこめた意味ですが、外部の講話ですと「わからないんだから、手を抜いてうまくやれ」と申しています。一方、塾生にはわかるようになったらそのお客様は永遠の友となれる、と付け加えます。どちらを選ぶかは、その人の境遇や想いで変わるでしょう。この料理を食べて、ダンボネ氏は、私と同じ哲学をお持ちなかと感じました。店なのだと思慮ます。
あわせるワインは、「甲州FOS」です。マセラシオン発酵させており、ミネラルと酸が山菜と相性がよく、複雑なアロマが、春菜と柑橘ゼリーに驚くほど合い、料理の味わいを膨らませてくれます。
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 焼き蛤と焼きミル貝の春菜ゼリー寄せに続いて、ダンボネ氏らしい新しい試みとうか提案があります。“ダンボネプレート”と呼ばれるおつまみプレートです。冒頭でこちらの料金設定でおかわりができるアルコールが込みというお話しをしましたが、この“ダンボネプレート”もおかわりができます。これは、人によって食べる量やペースが違うことへのバッファーになり、ダンボネ氏の心配りが伝わる品々です。食べ混んだダンボネ氏らしい心憎いサービスです。
ただし、行儀が悪い食べ方をすると出禁になりますのでご注意を願います。
 写真右が、人参と大根と金柑の紅(くれない)サラダで、紫人参、紅しぐれ大根、金柑を塩、胡椒、黒酢、フランス産のヘイゼルナッツオイルで和えたサラダです。
真ん中が私の好きな氷魚(ひうお)です。氷魚とは鮎の稚魚で、琵琶湖の貴重な材料です。塩、醤油で炊き上げて木の芽をふっています。左が、叩き胡瓜です。出汁をとった昆布、お酒、梅干し、醤油で炊き上げてすりつぶし胡瓜を和えたものです。
氷魚は少し甘めでおいしくお酒のあてにダンボネさんが何度もおかわりさせていただきました。
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さて、お料理に戻りまして、ダンボネプレートに続いては、当店のスペシャリテ海老真丈のお椀が供せられます。ダンボネ氏はこう説明します。
「この海老真丈の味わいは、吉兆から『青柳』の店主小山さんに受け継がれ、『小十』の店主奥田さんと継承され、そして今『東京和食 五十嵐』で完成の時を迎えています」
ふっくらした真丈は、海老の旨味が際立っています。もちろん、臭みなどみじんもなく、とてもクリアな味わいです。そして、吸い地との相性がすばらしいです。温度もいい状態で供せられています。このような大きな真丈を使うと、椀だねが温度を吸収して吸い地の温度下げしまいます。私も料理旅館で苦心する部分ですが、そこは心意気あるダンボネ氏。細心の注意を払ってはられた吸い地が冷めぬよう可及的速やかに客人に届けられます。
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 さて、続いては、天然とらふぐのあん肝巻きです。
下関の天然とらふぐに北海道余市のあん肝を巻いてレモンで酸味をつけたちり酢でいただきます。お酒は、京都伏見『澤屋まつもと』のウルトラ 純米大吟醸です。
とても合います。
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 とらふぐを巻いた鮟肝に続いてあかむつ塩焼きが供せられます。サクッとした皮目とふっくらした焼き上がりは、五十嵐料理長の火入れは調理技術のすばらしさの象徴的な料理と言えるでしょう。あかむつの脂の旨さは、魚本体だけにとどまらず、下に敷いたちぢみほうれん草にこぼれ落ち広がり、炒り米と干し椎茸でとった出汁の旨さを膨らませます。五十嵐料理長は、だし汁に鰹を使わなかったのはこのこぼれ落ちる脂を計算しているようで、旨味を出すイノシン酸を一口目のどぐろの余韻に求め、魚の香りを溢れ出るあかむつの脂に求めた、まさに一皿を食べて完成する料理ですね。しかも、素晴らしいのは、食べ混んだ人でもそうでない人でも良さがわかることです。
とても奥行きのある料理ですね。
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 のどぐろの余韻に浸っていると続いてのお料理の花山葵と海苔を添えた赤貝のお造りが供せたれます。こちらは、お醤油の代わりに佐賀産の海苔の佃煮を山葵の代わりに花山葵を組み合わせおります。気候が春めいた頃の宇部の赤貝の香りを春らしい香りで包み込んだお料理です。あわせるワインはシャブリ プルミエ クリュ フルショームです。キレのあるすばらしい酸と味わい深いなコクは魚介、醤油、わさびの特徴を膨らませすぎず、寄り添います。おいしいですね。
 
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 赤貝に続きまして、天ぷらです。揚げ油は『たきや』と同じく胡麻油ではなく紅花一番搾りを使用しています。この天ぷらも自信の一皿だそうで、それもそのはず、当店では開店前半年かけていかにあっさりと軽くサックサクに揚げれるかを研究したそうです。天ネタは空豆、こしあぶら、徳島産の椎茸です。紅花の香りがきて、それぞれのふくよかな味わいが広がります。
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 続いて、口直しに菊菜のスムージーが供せられます。
ダンボネ氏は、「食べ飽き、食べ疲れ」させないのが信条だそう、当初から中盤でスムージーや野菜ジュース的なものを取り入れるアイデアがあり、これで一気に口や気持ちがリセットされます」と言います。
春菊の苦味のアクセントもよく、バナナや林檎やオレンジの甘さや酸味とのバランスのよいスムージーと言えるでしょう。
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 さあ、これで料理も終盤線に向かいます。
いよいよお肉です。三種の楽しみのお肉が提供されます。
 醤油粕で漬けた土佐赤牛のサーロインと、以前視察しました大田さんの但馬牛の肉巻きTKG(卵かけご飯)」、それから岩手県一ノ関の千葉さんの門崎牛(かんざき)のハラミを玉ねぎと黒酢とはちみつで作ったソースでステーキ風にしたものです。知り合いの生産者の料理がお皿にのることが多くなりましたね。赤ワインはクロ ルネ ポムロールです。しっかりした骨格と質感がありながら決して重過ぎません。ふくよかでとても余韻のあるバランスのワインです。
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 お肉の後はしじみ汁です。一晩かけてエキスを抽出したしじみ汁は、軽い味噌のアクセントです。
しじみ汁を飲むと何でこんなにしみじみするんだろう、ですって(笑)。
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 しじみ汁に続いては、お鮨です。まず、炭火焼き竹岡の太刀魚です。遠目で見ていて、串打ちや炉で焼きが素晴らしいので、見入ってしましたね。
 さて、こちらは変わっていて酢飯の上乗せです。以前、福岡の『行天』(魚アカデミー福岡校)で江戸前の小鰭が供せられましたが、あのときを思い出します。江戸前の小鰭は脂のりが強烈で、やや重油っぽい微香があることすらあります。その小鰭を食べるときにネタとシャリを逆さにして食べてください、と。そうすることで、酸から香りが広がり、魚の濃厚な旨さがきた記憶が蘇りました。
シャリは與兵衛、琥珀、米寿のブレンドで、ふわふわの太刀魚と非常によく合っています。
あわせるお酒は島根県純米酒王祿で、とても相性がいいです。
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 二つ目のお鮨は羅臼馬糞雲丹と富山湾の白海老の手巻き寿司です。
ボリュームのある味わいの雲丹と白海老ですから説明はいらないでしょう。
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 お鮨の余韻で名物の蕎麦かと思いきや、炙りばちこと九条葱と高野豆腐の吉野煮が供せられます。いわば、亭主と客人が酒を酌み交わすための強肴的な位置づけなのかもしれません。
九条葱、壬生菜、高野豆腐をカサゴの出汁で吉野煮にして炊き合わせです。上には炙ったばちこがのせてあります。あわせるお酒は滋賀の七本槍の熱燗をです。お酒が進んでしまいますね。
本日のコースでは8種類の出汁を駆使しているそうです。アメージング!!
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 お料理はまだまだ続きます。続いては、茨城県涸沼(ひぬま)産の天然ものの鰻の小丼です。
もはや、五十嵐料理長の焼きについてはふれる必要はありませんね。お茶碗は人気作陶家の信楽の澤克典(さわかつのり)氏のものだそうです。
 さて、名物の十割蕎麦です。そば切りがすばらしいですね。最高の喉越しです。五十嵐では〆蕎麦として供するため、食べ疲れしないように細く仕上げているのが特徴です。細くてもしっかりと蕎麦の香りが楽しめます。本日は、茨城県下妻産の常陸秋そばです。最近、私が好んでよく使う蕎麦粉です。胡麻汁わさび乗せが特徴的で、蕎麦の香りと余韻を膨らませながら美味しくいただけます。おまけに、二八蕎麦のお土産付き。五十嵐料理長が分単位でお仕事されているのがわかります。五十嵐の労を惜しまず、客人に喜んでいただこうという姿勢が伝わった一品でした。
 最後は「銀座奥田」からのデザートの定番のさっぱりと苺とシャーベットにスパークリングワイン。
お好みの茶碗でお抹茶をいただき、おいとまです。素敵な時間を過ごすことができました。
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東京和食 五十嵐
住所:非公開
電話:非公開

 

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