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人事・労務

第9講 JALがファーストクラスのコーヒーカップに障がい者アーティストのデザインを採用する理由 ―ウェルビーイング経営の戦略―

顧客・社員・社会から支持される「ウェルビーイング経営入門」

3 サステナビリティの鍵は環境と人権

 サステナビリティといえば、SDGsが浮かぶ人も多いはず。SDGsとESG投資は、アルファベットスープといわれるほどややこしい響きですが、時代の先端を行く経営者のみなさんは、その意味合いをスラスラと説明できますよね。とはいえ、念のためESGについては、ちょっと説明を加えておきましょう。

 ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの要素の合わせ技で、企業や投資家が持続可能性や社会的責任を判断するための経済用語です。要は、事業をするならば、環境影響、社会的側面、組織ガバナンスにしっかりと焦点を当てて行うべし、それができているのか吟味するための指標というわけです。今日は、このうち、JALのEとSの取り組みをピックアップ。必要な視点は以下の通りです。

環境 (Environment)とは

 その企業の活動が、環境にどんな影響を与えているかを評価します。具体的なポイントは、温暖化の原因である温室効果ガスの排出削減、再生システムの構築、廃棄物の再利用や活用などが挙げられます。いわゆる、地球にやさしい活動です。

 なお、今日取り上げるJALは、CO2排出量が特に多い航空事業を営む会社です。スウェーデンの著名な環境活動家グレタ・トゥンベリさんが、移動には飛行機を使わないと宣言し、ニューヨークの国連本部からの招待を受けて、ヨットで海を渡ったエピソードは有名ですね。さあ、ESG戦略を最上位に掲げるJALは環境面で、いったいどんな取り組みをしているのか注目です。
https://www.jal.com/ja/philosophy-vision/strategy/

社会 (Social)とは

 企業が従業員、顧客、取引先、地域、社会や未来に対してどんな社会的責任を果たしているかを評価します。労働環境や条件、人権の尊重、ダイバーシティとインクルージョン、また、地域社会への貢献なども含まれます。いわゆる、人にやさしい活動です。

 JALは国際線を多数保有し、世界中の人々の移動を支える国際的企業です。どんな取り組みがなされているのか、この点も気になります。

 さあ前置きはこれくらいにして、いよいよウェルビーイング経営と環境(E)と社会・人権(S)の観点でJALの取り組みについてみていきましょう。

 

4 JALの環境(E)への取り組み

(1)機体運航による負荷削減

 まず機体の運航そのものから生まれる影響を減らせているかが重要です。この点、JALは、昨年、約20年ぶりに国際線の新しい主力機材を導入しました。その名は「A350-1000」、特徴はその軽さです。軽量化により、航空会社が抱える最大の環境負荷要因である、運航によるCO2排出量が、従来機から15〜25%減少、これは大きな削減になります。また、新機体は騒音も小さくなり、周辺への影響も緩和されることが期待されます。

(2)機内食やラウンジの商品サービスでの取り組み

 機体だけでなく、機内やラウンジでの商品サービスも変化を見せています。

 機内食では、一部の路線で「未来の食材50」が導入されています。「未来の食材50」とは、安全で栄養が高く、生産段階で環境負荷が低く土壌を回復させるなどの観点から、英国WWF(世界自然保護基金)とユニリーバが提唱する持続可能な食材です。
https://www.unilever.com/news/news-search/2019/knorr-and-wwf-uk-introduce-50-future-foods/

 また、スプーンなどの使い捨てプラスチック用品は2025年度までの「新規石油由来全廃」に挑戦。蓋も紙製にし、プラスチック容器は100%再生ペットボトル材を使用するなど細やかな工夫が見られます。

(3)袋そのものを無くす工夫

 また、興味深いのは、素材の置き換えだけでなく、仕組み自体を変えていく試みです。例えば、ラウンジでもらえる紙おしぼりでは、ビニールカバーそのものを廃止し、押せばおしぼりが出てくるディスペンサーを導入。おつまみのスナック袋も個包装自体をやめ、大皿に出されたスナックを、ビュッフェ式で客が自由にとるスタイルに変更するなど、「そもそも要らない」発想転換からのプラスチック減を実現しています。

(4)食事キャンセルは世界初の試み

 世界全体の食品は、その約40%が損失・廃棄されているとも言われます(英WWF(世界自然保護基金))。いわゆるフードロス問題です。また、食品の生産から廃棄までのシステムでは温室効果ガスが大量に発生しています。

 JALは、国際線機内食の調理過程で出る食品の残渣のうち、リサイクル可能なすべてを堆肥にし、また、通常廃棄される部分(玉ねぎの皮、ブロッコリーの茎など)や規格外野菜を食材として活かす取り組みがあります。
https://www.jal.com/ja/sustainability/environment/limited-resources/

 なお、フードロスといえば、食べ残し問題もありますね。通常、食べ残しは堆肥や飼料化のリサイクルが推奨されますが、なんと、機内食の食べ残しは、検疫ルールにより、全て焼却することが世界的に定められており、堆肥や飼料などへのリサイクルはできないのだそうです。リサイクルできないということは焼却廃棄にかかるCO2排出量がそれだけ増えるということ。

 筆者も、以前はよく考えることなく機内食を食べ残したことがあり、無知だった自分を反省しています。賢明な読者の皆様は、機内食の食べ残しが、単に「もったいない」を超え、焼却処分による環境負荷につながることをぜひ知っておいてください。

 とはいえ、食べ残しは良くないからと言って、無理して食べなければならないかというと、それもまた苦しいもの。前後に会食の予定があるとか、体調の関係で食事量を減らしているとか、理由があって機内で食事をとらない時もあるでしょう。そんな人のために、JALは、機内食の事前キャンセル受付サービス“JAL Meal Skip Option”の提供を始めていました。世界の航空会社で初の取り組みだったとのこと。

 さらに特筆すべき点があります。JALでは機内食を事前キャンセルすると、一食ごとに計算された一定額が、JALから、開発途上国での学校給食事業に寄付される仕組みを構築。食べても食べなくても、地球と人のためになる、まさにウェルビーイングな循環を起こす仕組みが徹底されています。

 なお、機内食のキャンセルサービス、現在では、ANAも国際線全路線で採用しています。
https://www.ana.co.jp/ja/us/offers-and-announcements/ana-future-promise/disposal-of-food-2023-03-22-01/
 ANAでは、キャンセルだけでなく、軽めのワンプレートメニューに変更できる「Quick & Light Meal」選択肢も用意されています(一部路線に限る)。旅客航空業界における日本の両雄が、そろって環境への取り組みを推進している点は、心強く、また誇らしいですね。

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