スカウト採用の考え方とは
人材獲得競争が熾烈化するなかで、これまで継続的に新規学卒者の採用を実施されてきた会社でも、「応募者が集まらない」など採用環境がますます厳しくなったとの声が様々な業種の会社から聞かれるようになりました。
自ずと中途採用者にシフトせざるを得ないことになりますが、常に募集をかけていても、良い人材に巡り合えないという悩みを抱える会社も少なくありません。
ただし、そのような厳しい環境下にあっても、いわゆる「リファラル採用」や人材紹介会社を通じた「スカウト採用」などを活用して、より良い人材を獲得しようと努力されている会社が増えています。
特にダイレクトマーケティングとも呼ばれるこの「スカウト採用」は、その名のとおり優秀な人材をスカウトすることが主目的です。管理職や将来の幹部候補として、前職での業務経験を評価しての採用となるのが通例ですので、応募者の想定年収も自ずと高めに設定されます。年収600万円以上というのが1つの目安となっているようです。
因みにこの年収600万円という水準、大手企業の大卒社員では30代前半の年収に相当します。大卒社員のモデル賃金(令和4年中労委「賃金事情調査」)で確認すると、35歳で月額(所定内)39万2千円、年間賞与は約5.0カ月ですので、年収換算では666万円ほどになります。30歳代半ばの採用応募者が、希望年収として600万円を提示したとしても、必ずしも過大な要求ではないことがわかります。
一方、中小企業(10~99人)の課長職(平均49.9歳)の平均年収は月給(所定内)40万3千円、年間賞与は114万円ですので年収600万円前後となります。生え抜きの優秀社員で、比較的若いうちに課長に登用されている者(平均37.9歳)であっても、月給(所定内)39万3千円、年間賞与は100万円、年収では570万円という水準です。
このように見てくると、人材サービス会社が提供する年収600万円以上クラスの求人サービスを利用することは、多くの中小企業にとってはかなりハードルが高いものといえるでしょう。中堅社員の採用といえども自社の課長職の給与以上の水準を提示しなければいけなくなるからです。
もっとも中途採用とは、他社で合わなくなった人材を安く迎え入れることではありませんから、優秀な人材をその能力に相応しい処遇で採用するのが鉄則です。他社で教育訓練された人材を、教育コストを掛けずに自社のメンバーに加えるのですから、その処遇もその経験と能力に見合ったものでなければならないのは当然のことです。
ところが、中小企業での採用では、自社経験ばかりを重視して、前職での経験を7~8割にしか見ないような賃金決定の仕方や、試用期間を通じて「仕事が実際にできるかどうかを確認してから、適正に給料を是正してやればよい」といったやり方や考え方が今なお多く見られます。これでは、自社の活性化に繋がるような人材の採用は望めないでしょう。従来の考え方は根本的に改め、経営者は採用時にしっかり人物を見極め、正しい処遇決定をしなければいけません。
大企業を中心に人材スカウト戦略の裾野が広がっています。スカウト採用を人事戦略に正しく位置付けて、外部からの“異能”を積極的に取り込み、企業体質の改善や組織の活性化に繋げていくことは、中小企業にとっても戦略的人事上の重要なテーマなのです。