賃上げに関連して、4月の給与改定期の話題となるのが昇格昇進制度の運用です。
通常、昇格昇進制度と一括りにして呼んでいますが、等級が1つ上に上がることを昇格とし、会社として上位の職位に就任させることを昇進とします。
昇格とは、文字通り「格付けが上がる」ことで、会社は昇格候補者の中から上位等級に位置付け、より責任ある仕事を任せるに相応しいと判断した者を昇格させます。昇格の“格”とは等級制度における等級格付のことです。
ただし、等級格付が上がるといっても、職務等級や責任等級(役割等級)など担当職務に軸足を置く等級制度と、職務遂行能力を中心とする職能資格等級では、昇格の捉え方も根本的に異なります。職能資格制度では、現等級での仕事が一定程度できるようになると、現等級を卒業して上位等級に異動させます(いわゆる卒業方式)。しかし、職務等級や責任等級では「昇格=上位職位(1ランク上の責任レベルの仕事)に就ける」という経営判断による人事権行使(いわゆる入学方式)となります。
さて、4月からの新年度に合わせて組織改編をする会社では、定期昇給の時期に合わせて昇格運用も行うことが多いです。このときの運用は「昇給が先、昇格が後」が基本です。すなわち、昇格者がいるときは、従来の等級で昇給評価(SABCD)を決定し、まずその評価結果に基づいて現行等級で定期昇給を実施します。上位等級に昇格させる場合には、昇給後の基本給額をもって上位等級の号数に読み替えるようにします。
中小企業などでは、4月の新年度がスタートに合わせて組織の見直しを行い、同時に昇格昇進を含む配置換えを実施するところが多いですが、これに対し3月決算の上場企業などでは、株主総会を6月後半に予定している関係もあり、事業計画に直結する組織改編や役員の改選等も株主総会に合わせて実施します。具体的には、4月の時点では昇格(等級格付の変更)運用のみを行い、6月時点で昇進運用を行うようなケースが考えられます。(3月時点で非管理職の配置換えを中心とした人事異動を行い、6月時点で管理職のライン職位を中心とした幹部社員の人事異動を行うケースもあります。)
職能資格等級制度を導入する会社では、このような昇格と昇進を分離した運用が広く行われてきましたが、昇格は賃金の上昇に直結するので、中小企業では昇格と昇進を分離した運用はお勧めできません。
昇給と昇格との関係に話を戻しましょう。
定期昇給は、評価によって昇給額に差が付く「実力昇給(査定昇給)」を基本としますから、「昇格おめでとう!」といって改めて役付手当などを付加し、実質的な昇格昇給をする必要はありません。昇格者はベテランに交じってより責任の重い仕事に挑戦し、期待される成果を出せばこれまで以上に大きな昇給が得られるのですから。
責任等級制賃金制度の場合には、責任の重さも基本給に含まれていますので、役付手当の重複支給はかえって賃金バランスを欠く要因となります。
ポストが少なく昇進が限られている製造業等では、非管理監督者である主任や係長に対して「モチベーションを上げるために相応の役付手当を付けてはどうか」という意見が出されることがあります。ただし、役付手当が付いたところで職名に相応しい期待役割(リーダーシップ、後進育成など)が明確化されていなければ、役付手当もまた若年社員にとっての不平の温床になります。
主任や係長に、明確な期待役割や職制上の責任が設定されている会社はごく一部に限られており、社内の序列構造に過ぎないという事例が多いものです。そのような会社で、「昇格昇給があればモチベーションが高く維持できる」ということにはなりません。
仮に役付手当を支給したとしても、当然に残業手当の算定基礎に入りますから、そもそも高額な設定はできません。月額5,000円~10,000円程度の役付手当であれば年間60,000円~120,000円ですので、それほど大きなインパクトにはならないでしょう。であれば、生産性の向上に努めて、業績が改善した分については賞与や世間並み以上のベア実現のための原資へと振り向ける方が、よほど社員のモチベーションの総和を向上させることでしょう。