5 社会・人権(S)の観点ではどうか
(1)障がいのあるアーティストのデザインをファーストクラスに採用
環境に続いて、「社会・人権(S)」についてはどうでしょうか。まず注目すべきは、障がいのあるアーティストのデザインを、国際ファーストクラスとビジネスクラスのアメニティ(ポーチ)に採用したことでしょう。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC1178M0R11C23A0000000/
航空会社のアメニティグッズ、歯ブラシや石けんなどの中身を使ったあとも、ポーチは長く手元に残す人も多いもの。そこで、世界の航空各社はポーチに工夫を凝らし、高級ブランド(エルメス、ブルガリ、エトロなど)と提携し、いわゆる高級人気ブランディング戦略を採用する傾向がありました。
ところが、ここにきてJALは、障がいのあるアーティストたちと手を取り合う選択をとったのです。加えて、国際線ファーストクラスのラウンジ内で提供されるコーヒーのカップ&ソーサーのデザインにも障がいのあるアーティスト作品を採用。さまざまな国・地域の人が利用する国際線での多様性や人のつながりを大事にする戦略です。まさに、ダイバーシティ&インクルージョンによるESG戦略の実現といえるでしょう。
(2)エンターテインメントも多様性を重視
また、機内のお楽しみとして、エンターテインメントもありますね。ここでも、ESGのS(人にやさしく)観点からのアップデートが見られます。
具体的には、エンターテインメントの種類を充実させるだけでなく、対応可能な言語を拡充し、さらに目の不自由な方への音声案内や、画面を拡大させる機能、さらには色補正などを可能とのこと。
ポーチやコーヒーカップは「デザイン」を軸としたアップデート、こちらは「技術」によるダイバーシティ&インクルージョンの仕組みアップデートですね。いずれも、社会課題解決型アップデートとして、同社のESG戦略の一翼を担っています。
6 社内の取り組みもユニーク
ちなみに、今日紹介した取り組みはすべて、運航や顧客サービスに関するものですが、社内でも、ダイバーシティ&インクルージョンに関する取り組みは多数あるようです。特に、「JALD&Iラボ」という、希望する社員が、 LGBTQへの理解促進、グローバル人財の育成、イクボス、障がいのある社員の活躍推進、の4つのテーマについて自由に考え研究・調査し、経営に提言を行なう仕組みは、ユニークな取り組みだと思われます。なお、「経営に提言を行う」仕組みがある点では、ESGのG(government経営)面からも評価できそうです。
7 ウェルビーイング経営には多彩な取り組み方がある
今回は、JALを取り上げて、環境と人権の観点からウェルビーイング経営を実践している実例を紹介しました。もちろん、本稿に挙げた以外の取り組みも無数にありますが、ここで取り上げたものだけでも、その幅広さや、あるいは、地道さに驚かれた方もいるかもしれません。もしかすると、JALを前より好きになった、利用したくなった、なんて気持ちも少しわきあがっていませんか?それこそが、企業への信頼と好意形成、つまりESG戦略のブランディングとしての効果です。「ESG戦略を経営戦略の最上位に」という宣言の力強さを改めて感じます。
どの企業にも、社会的責任が与えられています。それを果たすべく目の前の課題にひとつひとつ取り組めば、ウェルビーイングな社会が実現されるのはもちろん、その会社を応援したいという顧客の気持ちも膨らんでいきます。ウェルビーイング経営は、きれいごとの夢物語ではなく、現実的で有効な経営戦略なのであります。
さて、みなさんの会社では、ウェルビーイング経営としてのE・S観点で、どんな取り組みがなされていますか?
これから、自社でどんな仕組みを作っていきたいですか?
そもそも、この世界が、いったいどんな風だったら良いと思っていますか?
ぜひ、経営者のみなさんは自ら問いを立てて、ウェルビーイング経営に取り組み、新しい豊かな未来を作っていってほしいと思います。