「ウェルビーイング経営」とは、株主や顧客だけでなく、従業員や地域、環境など多様なステイクホルダーの幸せを高めて、自社の成長を目指す経営のことを指します。中でも注目されるのは、従業員のウェルビーイングを高め、事業の発展につなげる手法です。従業員の幸福度が高いほどビジネス上の成果も上がるという研究結果は、もはや経営上の常識に近づいています。例えば、米イリノイ大学心理学部名誉教授エド・ディーナー氏らによる、主観的幸福度の高い従業員は生産性が31%、売上は37%、創造性は3倍高いという研究論文は、世界中の経営者をウェルビーイング経営にけん引する大きなインパクトをもたらしました。
従業員の幸福度を上げる方法はいろいろですが、今日注目するのはコーチング的かかわり、特に「承認」の力です。従業員の幸福度や可能性を引き出すためには、指示命令ではなくコーチングを軸としたかかわりがカギとなりますが、その中でも、特にリーダーが知っておきたい「承認」の効果と方法を解説します。
〇組織は人が作っている
どんな素晴らしい経営理念や戦略があっても、それを実行するのは、そこに働く人たちです。働く人が力を存分に発揮し、自律的に成長する職場を作ることは、理念や戦略の実現には欠かせません。
そして、人の力や自発性を引き出す効果的な関わり方がまさにコーチングであり、中でも重要なスキルが「承認」なのです。
〇承認とは何か
まず、承認とは「相手を認める言動の全て」を指します。承認には次のような効果があります。
① 不安の低減
人は常に不安を感じている生き物です。不安は完全に取り去ることはできませんが、あまりに不安が強いと十分な力を発揮できません。職場でも、自分はこの会社で信頼されているのか、できない人材と思われていないか、そんな不安が、仕事への意欲を少しずつ低下させます。その結果、仕事に遅れが出たり、周りに相談できずに一人で抱え込んでしまうのです。これは不安がもたらす負のスパイラルでもあります。不安による負のスパイラルを好転させるのが「承認」です。
人は、自分が認められたと感じるときに一気に不安が軽減し、「心理的安全性」も高まります。その結果として、やる気が出て仕事のスピードも上がり、生産性も上がっていくのです。
② 自己開示の促進
承認されると、人は自分自身を安心して開示できるようになります。そして、自己開示ができるようになると、自分の弱い面も見せることができるようになります。逆に、自己開示ができないと、自分の弱い面やミスを伝えられません。上司にとっては、部下のミスや、仕事の遅延状況を知ることは、とても重要なことですよね。そこを隠されると、仕事全体に支障が生じますし、隠ぺいは組織的な問題にもなりかねません。
自分の弱みやミスについて率直に話せる自己開示の力は、上司の承認によって育てることができます。つまり、部下は普段から上司に承認されている時に、自分の失敗も率直に開示できるようになるのです。上司の承認は、部下と組織を救うほどの効果があると考えましょう。