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人間学・古典

第31回 「七福神の正体」

令和時代の「社長の人間力の磨き方」

 まだコロナウイルスとの闘いは続くようで、社会活動、経済活動への大きな影響は厭というほどに味わった。とは言え年も改まり、今年こそ明るい展望が見える良い一年を願うのは誰も同じ気持ちだろう。

 

 年末の慌ただしさに流されながらも、暦だけは誰にも平等に同じ速さで進み、「正月」と相成る。明治以降、「正月」にまつわる我々の行動や行事も大きく変わった。夏の「お盆」も同様で、まとまった休暇が取れる滅多にないチャンスでもあり、国内、海外を問わず旅に出る人もいれば、家で寝正月を決め込み、堂々と昼間から酒を飲み、あるいは時間ができたらと思っていた読書に取り組む人もいるだろう。

 

 今の正月の過ごし方を否定するつもりはない。しかし、せっかくの新年、「正月」の本来の意味を知っておくのも悪くはないだろう。仕事始めのご挨拶のエピソードにでもしていただければ幸いである。

 

 正月は単に年が改まるだけではなく、一年で最も重要な、その年の「歳神」を迎える行事である。神様は毎年同じ方角からやって来るわけではなく、その年に神様がお見えになる方角はめでたい「恵方」と呼ばれる。節分に「恵方巻」を食べるのはここ数十年で広まったのはご承知の通り。

 

 年末になると玄関にはもはやほとんど見られに「門松」を飾り、「お節料理」に精を出す。神様は松の木を依り代として降臨する。その目印に松を立てるのだ。能舞台の背景に、必ず松の木が描いてある。芸能は神に奉納するという本来の姿が遺ったもので、あれを「影向の松」と呼び、神が降臨する場所でもある。「お節料理」は保存食の一面も持つが、本来は歳神様に捧げる料理で、そのお下がりを我々が口にし、新しい一年が始まる。

 

 いろいろな行事が時代の波で廃れたが、「お年玉」だけはそのままのようだ。やり取りを終え、二日の夜には枕の下に縁起の良い「七福神」の絵姿を敷いて眠ると良い「初夢」が見られると言われている。確かに、賑やかな装いで船に乗る「七福神」は、福をもたらしてくれそうだ。

 

 講演などのアイスブレイクで、「七福神を全部言えますか?」というクイズを出すことがある。多くの方が「恵比寿、大黒、毘沙門天…」辺りまでは調子よく出るものの、その後がなかなか続かない。「布袋、福禄寿、寿老人、弁財天」だが、驚いたことにこの中で日本の神様は「恵比寿」だけだ。

 

 「恵比寿」は「戎」とも書き、日本神話にも登場する。京阪神の一月十日の「十日戎」は、関東圏の十一月の「酉の市」と同様に商売人には験担ぎの行事として今も盛んだ。

 

  では、他の神様の「出自」はどうなっているのだろう。財宝が入った白い袋を担ぎ、打ち出の小槌を持った福々しい「大黒」は、実はヒンドゥー教の「シヴァ神」の化身、マハーカーラ、別名「大いなる暗黒」とも呼ばれている。強烈な破壊神で、大黒の「黒」は、世界を破壊する時に真っ黒な姿で現われることから来ている。

 

 勇ましい「毘沙門天」は戦の神様で、こちらもヒンドゥー教だ。憤怒の形相で、七福神の中では唯一武将の姿である。右手に宝棒、左手に宝塔を持ち、足の下に天の邪鬼を踏みつけた立ち姿も雄々しい。クベーラ神と呼ばれ、仏教に取り入れられてからは「福徳増進」を担う神になった。この辺りの変わり方が凄い。また、ほとんど区別が付かない「寿老人」と「福禄寿」。名前の通り「福禄」、財宝と「寿老」、長命を司る神様だ。中国から朝鮮半島を経て日本にわたり、土着的信仰として根付いている「道教」の神様だ。

 

 見るからに福々しく、美味しいものをたらふく飲み食いして、いかにも満ち足りた感じの「布袋」。唐代の中国に実在したとされる禅僧がモデルで、手にした袋から大いなる財宝を与えてくれるとのこと。更に、釈迦の入滅後56億7千万年を経てこの世の救済に現われる「弥勒菩薩」の化身とも言われている。

 

 紅一点の存在が、音楽や芸能・技芸を司る「弁財天」。こちらもヒンドゥー教の「サラスバティー」という神で、経緯はわからないが「妙音天」「大弁財天」などと訳された。更に、「ヴァーナ」と呼ばれる弁舌の神様と合体し、学問や音楽・芸術の神としての性格が加わった。琵琶を抱え、羽衣をまとっているのが一般的な姿で、芸能を生業とする人々に信仰されている。

 

 ところで、なぜ「七」福神なのだろうか。古来、日本では「奇数」が縁起の良い「陽数」とされてきた。地方によっては「六福神」や「八福神」なども見られるが、この「陽数」に対する感覚が「七」の最大の理由だろう。

 

 異国の神々がなぜ「七福神」に姿を変えたのか。「八百万」というほどに神々の多いこの国で、特定の神の変容の足跡を克明に調査するのは至難の技だ。「困った時の神頼み」というほど神々とフレンドリーに生きる日本人ならではの発想である。

 

 組織のリーダーは、時に社員にとっては「神」にも「鬼」にもなる。その使い分けのタイミングをも考えながら、今年はぜひとも良い一年にしたいものだ。

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