厳しい経済状況を乗り切るためには発想の転換が不可欠だ。いま、居酒屋業界で最も注目を集めている経営者といえば、「焼酎の無料サービスの居酒屋」を打ち出した株式会社居酒屋革命グループの天野雅博氏(総合プロデューサー)である。「居酒屋業界に革命が起きた」といわれる程、新業態の「居酒屋革命」を昨年12月に開業以来、既に6店舗を展開している。
「焼酎の値段を一切いただきません」「何杯飲んでも焼酎が無料」というインパクトのあるキャッチフレーズで、マスコミにも何度となく紹介され、話題の居酒屋である。料理2品を注文することを条件にしているだけ。居酒屋革命の大山総本店も銀座本店の客単価は平均2700円とほぼ同じ。消費者にとっても、一度利用すると、口コミしたくなる異色の居酒屋である。
なぜ、焼酎を無料にする居酒屋を考えたのか。果たして採算は取れるのか。仕入れている焼酎代を販売促進費用と考えれば、店に来店させるための戦略は成功している。マスコミで取り上げられた回数は数え切れないほど。新聞から雑誌、テレビ、ラジオまで100社以上、広告に換算すると、莫大な費用をかけたぐらいマスコミに登場している。
開店当初の準備段階で、「タダで焼酎を飲ませるなんて」ということで、商品を卸してもらえないというエピソードがあったくらい、業界初の出来事だった。最近は、どこからでも仕入れられるようになっている。当初より、質のいい焼酎を仕入れているという。お客が増えて、銀座本店の場合、当初、90席だったものを120席にリニューアルするほどの繁盛ぶりである。
業界では確かに異色な居酒屋である。業界の常識では「焼酎をタダにする居酒屋」は実現できないのである。「お客様を信じることですね。ただ酒だけ飲まれて、今に潰れるよ、という陰口もたたかれました。今では、お客様から『ありがとう』という声をたくさん、いただいています。『やってみて初めて答えが出るよ』ということで、失敗を恐れていては前には進めないということです」と天野氏。
天野雅博氏が仕事を一緒にしている幹部社員やスタッフに伝えている言葉がある。「知行合一」といって、中国の王陽明(陽明学の開祖)や吉田松陰がよく語った言葉である。「知識をつけることは行動することの始まりであり、行動することは、つけた知識を完成させることである。いくら知っているといっても、実際に行なわなければ、知っているとはいえない」と天野氏は理解している。行動がありきというわけである。
上妻英夫