前回のコラムで、中国経済の当面の懸念材料として、国内リスクの住宅バブルの懸念及び国際リスクのユーロ危機の恐れという二大リスクが挙げられた。今回は、中長期的なリスク要素として、格差問題と役人の腐敗問題という二大「時限爆弾」を取り上げる。
今開催中の上海万博も、2年前の北京オリンピックも、国家の一大イベントである。国の威信をかけてぜひ成功させたいと、ある意味で、国民の思惑と政府の思 惑は一致しているので、不平不満があっても我慢する。しかし、イベントが終了し、政府が下手に対応すれば、これまで蓄積されていた国民の不平不満が一気に 爆発する恐れがある。
不平不満の矛先は、格差問題と役人の腐敗である。中国には3つの格差問題が存在する。一つは、沿海部と内陸部の地域格差だ。最も豊かな上海と、最も貧しい貴州省では十倍近い格差がある。
日本は良く「格差社会」と言われるが、1人あたり所得が一番高い東京都と一番低い沖縄県の格差は僅か2.4倍だ。中国は日本より格差が遥かに大きい社会であることは間違いない。
2つ目の格差は、都市部と農村部の所得格差である。政府統計では3.3倍だが、実質は6倍強。農民たちは社会保険がないからだ。医療保険も雇用保険もなく年金も貰えない。
さらに農村部の戸籍を持つ子供たちは、都市部へ行けば義務教育も受けられないのだ。3つ目は、富裕層と貧困層の貧富格差だ。これは100倍近くと言われる。
要するに、内陸部、農村部、貧困層の人たちは高度成長から取り残され、受ける恩恵が少なく、不平不満が溜まっている。これは多発している農民暴動の最大の原因とみられる。
中国経済が抱えるもう1つの「時限爆弾」は腐敗現象の蔓延である。最高裁判所の活動報告によれば、ここ5年間、収賄など汚職事件で有罪判決を受ける処長(課長)クラス以上の公務員は4,525人にのぼり、5年前に比べ77%も増えた。
腐敗の蔓延は「党と国の生死存亡にかかわる」(胡錦濤国家主席)深刻な問題となっている。格差問題と腐敗問題。もし政府が下手に対応すれば、この2大「時 限爆弾」爆発し、中国経済も挫折する。ビジネスリスクとして、日本企業は見逃してはいけない。
それでは仮に中国経済が挫折した場合、それは一時的な挫折にとどまるか、それとも長期化するか?私見だが、一時的なものにとどまる可能性が高いと思う。理由は次の3つである。
1つには、中国の工業化は未完成の状態だ。全国的に見て、7割完成、3割は未完成。工業化はこれからも続くと思う。
2つ目は、都市化も未完成である。09年末時点で、中国の都市部人口が総人口に占める割合は47%未満で、農村部は未だに53%強を占める。今後も中国の農村部から都市部への人口移動は行われていくのである。
3つ目は、中間層・富裕層の急増である。経済産業省の「通商白書」によれば、年収ベースで5000ドルから35000ドルの収入のある人は中間層で、その 人口数は既に4億4千万人にのぼり、日本の総人口の4倍弱に相当する。しかも毎年急増している。
実際、この中間層の多くは、10年前、貧困層だった。今の貧困層も、10年、20年後には、中間層・富裕層にシフトする。これが経済成長のパワーである。
工業化の継続、急ピッチの都市化、中間富・富裕層の急増という3つの要素によって、たとえ上海万博後の中国経済は挫折するとしても、これは一時的なものにとどまり、2020年まで年平均7%成長はキープされると思う。