コロナに加え、ロシアのウクライナへの侵攻もあって、原燃料などの資源高騰が起こり、加えて円安が日本の内需産業にまさにボディーブローのように効いている。今や食品価格の値上げが新聞に掲載されない日はないような状況である。一方で、我が国では賃金上昇もままならない中で、消費者の節約志向はより強いものとなっている。
そんな中でありながら、元気いっぱいなのが、広島に本拠を構える豆腐メーカーのやまみである。豆腐業界にとって、穀物市況高、原油高、円安はまさに三重苦。中小零細業者はコストアップで青息吐息の状態にあり、しかもNBの加工食品とは異なって、ブランドが確立されている商品ではないため、小売業との値上げ交渉も簡単ではない。そんな中で、豆腐の全自動ローコスト製造法を確立しているやまみのシェアが急上昇している。
もちろん同社もコストアップはライバル同様だが、それでも当面は富士山麓の新工場の数量増による稼働率上昇もあって増益は確保できる見込みである。もっとも、逆風下で売上を拡大させることで、次に穀物市況下落、原油安、円高というフォロー局面がやってきたときには、一気に利益水準を急拡大させることが想定される。その意味では同社にとっても踏ん張りどころではあるが、むしろアゲインストだからこそ、逆に強みを発揮できるという考え方である。
2022年6月期第3四半期累計決算は、1.8%増収、39.4%営業増益となった。上場企業では2022年3月以降に決算期を迎える企業では収益認識基準の会計処理が義務付けられている。その収益認識基準採用の影響を除いた実質の増収率は8.3%増となる。これだけの逆風下でありながら、第3四半期累計の営業利益782百万円は、2016年6月期第3四半期累計決算の844百万円に次ぐ水準となっている。2016年と言えば、為替は乱高下していた時期であるが、原油価格や大豆価格は現状よりかなり低水準の時期であるが、その水準と肩を並べるような利益水準が出せているのである。
第3四半期の3カ月間では、実質10.5%増収、営業利益は14.6%増益であった。四半期ごとの実質増収率を見ると、第1四半期の5.9%増収、第2四半期8.2%増収、そして第3四半期が10.5%増収と伸び率が急速に右肩上がりとなっている。
この背景は、豆腐メーカーがコストアップの転嫁のために、相次いで小売業に納入価格の引き上げを打診することで、小売業から同社に代替手段はないか問い合わせがくるような状況になっているためである。
小売業の店頭における豆腐は高い頻度で買われる商品故、そのスペックごとに消費者がそれぞれに値ごろ感を持っており、そのため同一商品の単純値上げは難しいと同社や小売業では考えている。そこで、ブラッシュアップによって値上げする形になる。むしろ安い製品から価値訴求型の製品への入れ替えである。
例として、今回、同社製品が関東の大型ディスカウンターであるオーケーストア(2020年度の売上高5,089億円)に本格採用されたパターンを取り上げてみよう。豆腐の陳列は各スーパーとも棚が3段ほどで、最下段が特売品で、輸入大豆なら40円-50円、国産なら80円、90円から並んでいる。2段目が100-120、130円ほどで最上段が200円前後のような並び方である。消費者はその中から、用途や目的によって、各家庭でいくつかの購入パターンを持っていると考えられる。ただし、指名買いはそれほど多くはないものであろう。
今回、オーケーストアで5月末から発売された商品は、国産大豆のブランドであるトヨマサリを使った60g×6Pのマルチ製品である。こういった手間のかかる製品は他社ではかなりのコストになるが、同社は全自動で行うため1時間で5,000個という超高速で製造できることでローコスト化が可能である。
オーケーストアでは同タイプの製品は従来、他社の輸入大豆を用いた製品を扱っていたが、コストアップで値上げを打診され、同社製品に切り替えた模様である。当初は1日辺り700-800個の販売を考えていたところ、先方が乗り気なって1日5,000個のペースで売る勢いとなっている。
オーケーストアの店頭では、豆腐売場での展開に加え、目玉商品として通路側での大陳列も行っていた。おおよそ、この商談だけで同社にとっては年1億円ほどの金額となる。製品自体の評判も良いようで、次の商品の話も進み始める模様である。
このように大アゲインストの中でもむしろその逆風を逆手に取って、シェア拡大を成し遂げるというしたたかな経営はなかなかに感心させられるものである。
有賀の眼
もちろんのこのような芸当は、今回のような大逆風が起こってから対応できるものではない。その状況で今更あがいたところでどうにもならない。逆風下にむしろ逆風をてこにして成長するためには、順風下もしくは、平常時に徹底的に自社の強みを強化する以外にはないものである。
同社の場合、2012年に滋賀県に関西工場を建設し、広島から関西進出を成し遂げた。その後、2016年には株式上場を果たしている。ただし、その関西工場のラインの新設や増設にやや手間取ったこともあって、上場後の業績は若干伸び悩むことになる。しかし、それにひるむこともなく、2019年には満を持して富士山麓に工場を建設し、大々的に関東に進出した。
当然ながら初年度は償却費増や関東の既存メーカーの抵抗にもあって、利益は大幅な減少となった。しかし、それでも決してひるむことなく、自社の技術を信じることで、関東市場の開拓に注力して、現在を迎えている。進出時には既存メーカーの抵抗で思ったようにシェアが獲得できたわけではないが、むしろ原燃料高による業界の三重苦を追い風にして、シェアを急速に拡大することができている状況となった。同社は豆腐メーカーとしては売上高で第2位と考えられるが、それでも上場企業内での比較で言えば、依然中小企業と言う位置づけである。しかし、この苦境を切り抜けた暁にはいよいよ上場企業としてまずは中堅企業の仲間入りができる環境となってきたと言えよう。