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人間学・古典

第40回 「昭和生まれが知らない『昭和史』」

令和時代の「社長の人間力の磨き方」

 「昭和」について語られる時、枕詞のように「激動」のと言われることが多い。「元号」を持つ国は世界でそう多くはないものの、世界で最も長く続いた元号であり、64年の長きにわたれば大きな激動があったのは当然だ。しかし、この長い時代を、当事者の昭和生まれの我々がつぶさに知っているかというと、意外にそうでもないのだ。

 

 時折、社会人研修の現場などで、「よく『先の大戦』と言いますが、日本が関わった以下の戦争を時系列で並べてみましょう」というクイズを出すと、意外に正解率が低い。

 

 ・満州事変(昭和6年)

 ・日中戦争(支那事変とも)(昭和12年)

 ・第二次世界大戦(昭和14年)

 ・太平洋戦争(大東亜戦争とも)(昭和16年)

 

 俗に「15年戦争」と呼ばれるのは、最初の「満州事変」から昭和20年までの敗戦のことを指しての場合で、日本とアメリカが本格的に戦端を開いたのは昭和16年12月の「真珠湾攻撃」からとなる。

 

 終戦までの20年でも昭和全体から見ればようやく三分の一で、確かに激動の時代ではある。その後、稀に見る速さで復興を遂げ、30年代には「高度成長期」と呼ばれる中での急成長を遂げ、「先進国」の仲間入りをすることになる。これ以降のことはよくご承知の方々も多いだろう。しかし、昭和26年まではアメリカの占領下に置かれ、日本が独立国として世界に認知されたのは、戦後6年を経てからのことになる。

 

 長い昭和期の終わりは、偶然重なったとも言える「バブル経済」の破綻とほぼ時を同じくして終焉を告げることになる。昭和天皇が崩御する前年、膵臓癌との診断を受けた。「史上初めて」天皇として外科手術を受けた人物でもある。天皇の肉体のことを「玉体」と呼ぶが、当時は「玉体にメスを入れる」ことの是非が本気で議論をされた時代でもある。

 

 終戦の詔勅を述べた、昭和20年8月15日の放送は、「玉音放送」だ。『堪ヘ難キヲ堪ヘ忍ヒ難キヲ忍ヒ以テ萬世ノ爲ニ太平ヲ開カムト欲ス』という一節がよく取り上げられるが、今はもう読み難い世代が多いだろう。産経新聞の調査では、実際に当時、生でこのラジオ放送を聞いたのは、全国民の3割程度しかいないという。それが、度々報道される番組などで、自分の追体験として記憶に加えられたのだろう。

 

 考えてみれば、東京や大阪などの大都市を中心に各地が空襲で壊滅的な打撃を受けた中、当時はまだ高級品だったラジオが各家庭にあるわけもないのだが、脳が記憶を塗り替えてゆくために、こうした錯覚が時に起きるのだ。

 

 「終戦記念日」を境に、日本は大きく変わった。アメリカを中心とするGHQ(連合国軍最高司令官総指令部)の占領下に置かれ、それまでの憲法も変えられ、天皇は「人間宣言」をした。以降、80年近くにわたってそのまま使われている憲法も、最近ことに激しく変わる世界情勢の中で「改憲」が叫ばれて久しい。

 

 占領下の中で日本は屈辱的な想いをした一方で、戦争に優勢だった初期の頃は、各地で蛮行とも呼ぶべき行為が行われたことも否定はできない。それらの一部は戦後、「戦争裁判」の対象にもなったが、占領された敗戦国でありながら、固有の言語である「日本語」を取り上げらることなく済んだのは不幸中の幸いという他はない。

 

 なぜか、現代の歴史教育では肝心な明治以降の現代史をあえて無視し、学校ではほとんど教わらずに来た。

 

 1万年前の歴史も大事なことに変わりはないが、明治以降の150年の激動は、今も形を変えながら続いており、こちらも重要であることは論を俟たないだろう。歴史は覚えるものではなく「考えるもの」だという基本的な考え方も、ようやく浸透し始めたが、自身が生まれた「昭和」がどんな時代であったのかを教わらぬままに大人になり、補完しないままでいるのはいささか問題ではないだろうか。

 

 とは言え、歴史の専門家ではない私に、詳しく昭和史を語る資格も能力もない。ただ、「大切なことだ」という忠言しかできないが、代わりに、読者の皆さんにお勧めできる書籍をご紹介し、ご寛恕いただこうと思う。「史料」とも言える書籍も玉石混交で、「一級史料」に当たればいいが、中にはとんでもないことを述べているものある。また、多くの昭和史が書かれており、その全部を読み切ることなどとても不可能な話だ。丹念に描かれた昭和史を読んでゆくと、かなりのボリュームになる。

 

 私の知る範囲では2021年に90歳で亡くなった作家、半藤一利氏による著作が丹念な調査と分かりやすさでは水準が高いと考える。昭和5年生まれの半藤氏の昭和史には自分の体験も織り込まれ、戦争近辺の記述は時に生々しい悲惨さや厳しさを伴う。しかし、それは誇張ではなく現実である。中でも、「1926-1945」「1945-1989」の2冊に分かれた『昭和史』は昭和を語る通史として優れた作品である。何の歴史でも同様だが、ある一点を掘り下げることと同様に、通して考える「通史」は重要であり、これを一人で書ける人はそうはいない。

 

 ゆっくり時間を掛け、のんびりと読みながら自分が生まれた時代を知るのもまさに「忙中閑あり」ではないだろうか。

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