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人間学・古典

第5回 「人の道」

令和時代の「社長の人間力の磨き方」

  「五・七・五」の十七文字から成る俳句は、「世界で最も短い定型詩」とされている。『古池や蛙飛び込む水の音』、芭蕉。わずかな文字数で、芭蕉は蛙が飛び込んだ後の「静寂」を詠んだと言う人もおり、いや、池に浮かんだ水紋を詠んだのだとも言う。中には、蛙は結局飛び込んでいないのだ、いたら、音がしただろうということだと解釈する人もいる。万人が様々な解釈ができるのが「名句」の条件の一つだとのこと。読者の方々の中には、俳句を嗜まれる方もいるだろうから、素人の知ったかぶりは禁物、この辺にしておこう。

 酒の席でも仕事の場でも、「人生とは何か」「いかに生きるべきか」を説く人がいる。ある程度の年齢を重ねた人には誰もが波乱万丈の出来事があり、右も左もよくわからぬ若者たちに、武勇伝や人の道を教えたくなるのは理の当然かもしれない。しかし、酒席に付き合ってもらうだけでも「ハラスメント」と言われかねない時代、ともすれば役に立つ話も「お説教」でしかなくなってしまう。

 そこで「お説教」にならないために、洒脱に「道歌」などを引き合いに出すのも一興かとも思うのだ。「道歌」とは、「五・七・五・七・七」の短歌の形式を借り、そこに人の生き方や物の考え方、世間様の教えを巧く読み込んだもので、先人の知恵のなせる素晴らしい財産だ。

 作者は有名無名を問わない。恐らく、江戸時代末期の江戸のように識字率の高くない時代、お寺でお説教や法話などで引用された「道歌」を、家に帰って囲炉裏端で孫たちに話していた老夫婦もいただろう。ここは、「社員教育の一貫」と気張らずに、その程度の軽い気持ちで話すぐらいでよいのだろう。

 「ほめられてわれかしこしとおもうなよ 誠にほめる人はすくなし」

 「あすまでと思う心のおこたりに 今日をばあだに暮らすはかなさ」

 「下見れば我に勝りし者もなし 笠とりて見よ天の高さを」

 あぁ、例を引きながら自分の胸が痛くなって来た。昔の人々の言葉は、まさに「寸鉄人を刺す」というところで、見事に人生の真理を突いている。いちいち解説をするほど難しくもなければ、解説するのも野暮というものだ。

 我々日本人は世界の人からその美徳の一つに「謙虚」や「つつましさ」を挙げられてきた。それがビジネスの局面では「遠慮」につながる場合もあり、相手に対する「忖度」にもなる。しかし、何百年もこうして語り継がれ、実践されてきた「思想」が背景にあることを知った上で、「日本人の考え」を想えば、何もかも欧米流一辺倒ではなくとも、とも考えられる。「謙虚」でいられるのは、その裏に確固たる自信があるからだとも言えるのだ。それを極度に押し出せば「傲慢」になり「尊大」になる。「道歌」は、そんなことどもを含めて、我々の生き方だけではなく、日々の心のありよう、困難への対処法などを教えてくれているような気がしてならない。

 いきなり「道歌」などを持ち出し、「古臭く、今の我々の生活に馴染むのかどうか」とのお声もあるだろう。しかし、「道歌」だと意識せずに、俚諺のように使っているものが、実は道歌の前半だったりする場合もある。

 「親孝行したい時には親はなし」。知らない方はいないだろう。この後に「墓に布団は着せられもせず」と続く。「立てば這え這えば歩めの親ごころ」。お子さんをお持ちの方なら誰しも同じ想いに違いない。しかし、この後に「我が身に積もる老いも忘れて」と続く。全部を読むと、我が子の成長を手放しでは喜んでもいられない気にもなる。

「道歌」は生きる指針だけではなく、世の中の厳しい現実をも併せて、我々の眼の前に提示しているのだ。今よりも数十年という単位で平均寿命が短い時代の人々だからこそ、自らの身を取り巻く人生の厳しさを受け入れ、その中でいかに「よく生きるか」を示したものの一つでもあると言える。

 時代の変化と共に多くの環境が変わり、便利な世の中になった一方、古臭く感じても普遍的に通用するものもある。最もわかりやすいのは「喜怒哀楽」の感情だろう。その表現方法は、明らかに多様化し細分化したが、根源は実にシンプルだ。今の我々が、いかに多くの夾雑物に囲まれて生きているか、を考えるヒントにもなるだろう。

 時代の先を見据え、自分が携わっている事業を更に発展させるにはどうすればよいのか。そのための「方法論」は枚挙に暇がないほど世に溢れている。その中で、昔の人々が歌の形で遺した「生きる指針」「考え方の方向」も、決して馬鹿にしたものではない。

 おしまいに、私が座右の銘ともしているものを一首ご紹介しておこう。

「怠らず行かば千里の果ても見ん 牛の歩みのよし遅くとも」

 効果のほどは、まだ途中であり、検証はまたいずれ。

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