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永続企業の知恵(9) 浮利を追わず(住友精神)

指導者たる者かくあるべし

 受け継がれる家訓

 今に続く住友グループのルーツは、江戸時代初期に住友政友(すみとも・まさとも)が京都で薬屋・出版業を営んだ富士屋にある。その後、政友の姉ムコが扱った銅商いが当たり、四国の別子銅山の経営で財をなして、両替商に進出し、三井、鴻池と並ぶ三大豪商としてその名を轟かせた。


 明治維新後、近代的財閥に発展した住友家が1928年(昭和3年)に制定した社訓にはこうある。


 第一条 我住友の営業は信用を重んじ確実を旨とし以て其の鞏固(きょうこ)隆盛を期すべし。

 第二条 我住友の営業は時勢の変遷、理財の得失を計り弛張興廃することあるべしと雖(いえど)も、苟(いやしく)も浮利に趨(はし)り軽進すべからず。


 この社訓は今も住友グループ各社に「営業の要旨」として引き継がれてる。とくに第二条は、「社会の変化に素早く的確に対応しながら利潤を追求し、常に事業の刷新を図るという新種の精神を示しつつも、浮利(ふり=目先の利益)を追うような軽率な行動を取るな」と戒めている。


 この精神は、家祖とされる政友が定めたものとされ、400年の時を超えて受け継がれてきた。

 

 

 別子銅山経営危機への対応

 別子銅山経営が住友家発展の基盤であったが、明治維新期に危機を迎える。銅山が幕府の資産であったことから新政府は接収に乗り出す。これを失えば、住友家は主たる収入源を失う。銅山の総支配人だった広瀬宰平(ひろせ・さいへい)は、「別子銅山はたしかに幕府直轄領ではあるが、経営は歴代、住友家が請け負ってきた」と抵抗し、新政府幹部の岩倉具視(いわくら・ともみ)に直談判して差し押さえを免れた。


 しかし、銅山経営は苦境に陥り住友家の財政を逼迫させていた。本店ではその売却を進める。ここで広瀬は、「住友の再生は、売却によってはなし得ない。銅山の再生を目指すべきだ」と反対論を主張、経営の合理化、経費節減を徹底する。さらに外国人技師を招聘して新技術を導入することで、生産額を飛躍的に増大させて危機を克服した。


 不良資産を売って目の前の利益(浮利)を確保するのは容易いこと。だが、経営努力で問題を克服し立て直すのが、商いの要点である。広瀬は住友精神を体現してみせた。広瀬はこの実績で、大番頭格である住友家総理事に上り詰めて、リーダーシップを発揮して、時代に合わせて経営の多角化を推進する。


 自ら立て直した銅山経営だけに固執せず、さらに広い目で住友の未来を見据えていた。

 

 

 商社設立ブームに乗らず

 住友には、逆に時代を見据えた慎重策で危機を回避した成功例もある。第一次大戦が日本経済にもたらした好況のさなか、儲けた大会社はこぞって商社設立に動いた。欧州との商機拡大のチャンスと見たのだ。


 当時、住友経営トップの総理事は、内務官僚から専門経営者としてスカウトされた鈴木馬左也(すずき・まさや)だった。鈴木は剛腕を発揮し、傘下企業を整理統合して、次々と株式会社化してゆく。事業展開面では別子銅山、銀行事業、金属事業を三本柱に据えて、さらに銅精錬の副産物を原材料とする肥料生産にも乗り出す。これがのちの住友化学に発展する。


 住友家、社内には、他社の動向を見ながら、「商社設立で乗り遅れるな」の機運が高まっていたが、鈴木はこれを押しとどめた。「製造業主体の住友には現状では貿易のノウハウがない」というのがその理由だったが、忍び寄る大戦後の反動不景気が見えていたのだろう。古河財閥など製造業系企業も次々と商社を設立した。しかし反動恐慌の中で新興商社は次々と破綻が相次ぎ、本体の成長戦略に長く影を落とすことになる。


 これもまた、「浮利を追わず」なのである。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

※参考文献
『日本の15大財閥 現代企業のルーツをひもとく』菊地浩之著 平凡社新書
『財閥の時代』武田晴人著 角川ソフィア文庫

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