新年度が始まりました。新型コロナウイルスをめぐる状況は厳しさを増し、消費者の購買行動にも影を落としていますね。
消費に制約を受ける状況のなかで、人はどう動くのか。私の見立てを申し上げますと「人は消費を我慢できない」、このひと言に尽きます。制約があっても、いや、制約があるからこそ、消費者は買い物に真剣勝負を挑むのではないかと思うのです。言ってみれば、厳しいルールのもとで、少しでも「びっくり」や「納得」のある消費を望むという話ですね。
3月26日、東京・渋谷に「Standard Products by DAISO(スタンダードプロダクツ バイ ダイソー)」がオープンしました。その名からお分かりいただけるかと思いますが、100円ショップとして広く知られるダイソーが新業態店の第一号を登場させた、というニュースです。
オープン初日には多くの人が訪れ、品切れとなる商品も続出していました。私自身も、開業当初から何度かこの店舗を覗いてみましたけれど、なかなかに興味深い商品ラインナップでした。
商品の中心価格帯は100円ではないんです。300円台から1000円超のものもあります。つまり「脱100円」のショップなんですね。で、目を惹く商品はというと、新潟の燕三条製とアピールするカトラリー(フォークやスプーン)、オーガニックコットンのタオル、シンプルな意匠や色合いの器類といった感じです。同社は「競合は意識していない」とコメントしているようですが、「無印良品」などのファン層に訴求するようなデザインワークにも個人的には思います。でも、そこは今回私がお伝えしたい主旨とは外れますから、ちょっとおいておきます。
なぜ、100円ショップの雄であるダイソーが、「脱100円」の新業態店なのか。いろいろと考えられますが、ひとつには材料費も人件費も上がっているなかで、次の一手をどう打つか、という話ではないかと感じさせます。海外で生産するにしても、低コストで済む製造先をどんどん探していかないといけないわけで、きりがないですからね。
もうひとつの理由として考えられるのが、冒頭でもお伝えした消費者の購買行動の変化ではないでしょうか。
先の見通せない状況下であっても、「値段がとにかく安くて品質そこそこ」の商品に多くの人が飛びつくとは必ずしも限らないという見立てです。消費に制約があるために、むしろ少なからぬ人々は、前述のように「消費に真剣勝負になる」。つまり、値段が安くて品質そこそこのものを購入して、後で後悔するくらいなら、多少の出費は惜しまないから一発で「買い物に勝ちたい」、そう考えるのではないかという推測です。
これ、過去の消費増税時に現れていた現象でもあります。家計への負担が増しているはずなのに、なぜか高級家電が売れたりしていました。出費の強弱をつけながら、ここは譲れないと判断した部分には、ちゃんとお金を投じるのですね。今回の場合、自宅で過ごす時間が長くなっているという背景もありますから、キッチン小物など、自宅空間をコーディネイトできる商品分野については、なおのことかと思います。
ダイソーはおそらく、そのあたりの状況を読んだのではないでしょうか。いきなり2000円、3000円といった価格帯の商品にまで踏み込むと、ダイソー本来の持ち味は消えてしまいます。だけれど、300円台中心であれば消費者も付いてくる。しかも開発コストがこれまでに比べれば相応に投入できますから、商品も幅を広げることもできるわけです。
こう考えていくと、「Standard Products by DAISO」に今後求められそうな要素を、僭越ですが私なりにまとめますと、よりオリジナリティの高い(と消費者に感じさせる)商品ラインナップを増強していき、「これが『コスパの新定義』だ」という旗を、現在以上に鮮明に伝えることが重要ではないかと考えます。
コスパとは本来、「値段が安い割に品質もまあ満足いく」という意味ではありませんね。「投じたお金以上の何かをもたらしてくれる」というのが語義と私は思います。同社がここからさらにどう踏み込んでいくのかが勝負どころ、という話です。