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挑戦の決断(19) 焦らず革命の時を待つ(周の武王)

指導者たる者かくあるべし

 殷周革命
  紀元前1,100年の頃、日本では縄文時代であるが、中国では大きな社会変化が起きた。中原の地を31代629年にわたり治めてきた殷(いん)の王朝を、西部の地に勃興した周が打ち倒し、新王朝を開いた。世にいう殷周革命である。
 殷の最後の王である紂王(ちゅうおう)は、緩んできた統治を引き締めるため強権を発動し、民心は離れはじめていた。殷の勢力下で力を蓄えつつあった周の文王(西伯)は善政を敷き、西部諸侯の支持を集めたが、紂王を討つ志半ばで世を去り、天命が尽きた殷を打倒しての権力交代は、息子の太子・発(武王)に託された。
 
 未だ時機にあらず
 武王は即位すると、父、文王の代から参謀として仕える太公望・呂尚(りょしょう)とともに殷誅伐の軍を起こす。一気に殷の都に向かう。途中、黄河を東へ渡る盟津(もうしん)の地に達すると、進軍の期日を伝えていたわけではないのに、諸侯八百人が馳せ参じていた。諸侯は口々に「今こそ紂を討つべきだ」と叫んだ。
 武王は、太公望に問うた。「今、殷に戦いを挑んで勝てるか」。太公望は答える。「八割方の勝利はまちがいないでしょう」と。それを聞いて武王は自重する。「八割か?」。そして勇み立つ直卒、諸侯たちに宣言する。
 「まだ時機ではない。お前たちは、まだ天命が殷を去らないのを知らないのだ」。武王はいったん引き上げる決断をする。
 怖気付いたのではない。まずは全軍の士気を確認するのが目的だった。自らは聖王と崇められた父ほどの仁徳と権威を未だ持ち合わせていないことを知っている。それでも八百諸侯が馳せ参じたのは、父、文王の威光の賜物だ。強敵の紂王を討つチャンスは一度しかないだろう。今はまだ時が満ちていない。そのタイミングを綿密にはかる必要がある。必勝の機会を得るためにさらに敵情を綿密かつ慎重に確認することが必要だった。
 大事を果たすには、一時の血気にはやることなく確実に敵を仕留めねばならない。八割の勝算では十分ではない。父の代から九年にわたり革命の機会をうかがってきた名参謀の太公望ははやる武王に諭したことになる。
 
 時が満ちれば敢然と
 そして二年が経った。殷の内政はさらに混迷を深める。内政に王妃がくちばしをはさみ、紂王は豪勢な飲食に耽溺している。それを諫める側近たちは次々と殺された。財政が厳しくなると農民たちには重税を課し、民心の不満は限界に達する。腹違いの兄の微子(びし)は、聞く耳を持たない紂王に絶望して国を去った。国にとどまって王を批判するおじの比干(ひかん)は心臓を抉り取られて殺される。
 殷周革命後に勝者によって書かれた歴史であるからかなり脚色されているだろうが、臣下、人民が離反したのは事実であろう。
 時至れり。王宮の祭祀を司る役人たちが周に亡命するに及んで紂王の統治能力が完全に失われたのを見てとって、武王は再度の進軍を決断する。しかし武王は慎重に父王の権威を利用する。父の位牌を掲げ、自らを王ではなく、太子・発と名乗り、諸侯に号令した。
 「発は今ここに謹んで天罰を下す。将士たちは務めを果たせ。機会はただ一度しかない。二度はないし、三度はない。この戦いは父、文王の宿願である。」
 決戦の地、牧野(ぼくや)に向かう武王の兵は4万5千人、迎え撃つ紂王の兵は十数倍の70万だったと史記は記している。しかし、戦いを前にすでに戦意を失っている紂王の兵たちは、武王の兵を歓迎し戦わずして道を開けた。王城に退却した紂王は自ら火を放ち果てた。
 軍の強弱は数の優劣だけではない。士気、つまり戦いの目的への意識の強さが勝負を分ける。さらに「時」を待ち、それが満ちれば一気呵成に攻めかかることだ。
 歴代の王朝交代を中国の史書は、「天命が尽きた」と表現する。しかし決して天が命じたわけではない。人心を読みただ一度の時機さえ誤らなければ、運命は人の手で動く。
 
(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
 
※参考文献
『世界文学体系5A 史記★』司馬遷著 小竹文夫、小竹武夫訳 筑摩書房
『十八史略』竹内弘行著 講談社学術文庫

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