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挑戦の決断(24) 富国強兵のため手段を選ばず(山県有朋)

指導者たる者かくあるべし

 地租改正が対立の原因
 列強の外圧の中でなんとか倒幕戦争を勝ち抜いて新政府を成立させた明治国家は、諸外国と互して独立を維持するためには、「富国」と「強兵」は喫緊の課題だった。富国強兵の願いは、前回取り上げた板垣退助も同様であったが、その方法論については、薩長出身の藩閥政治家たちの間でも大きな隔たりがある。
 長州出身者の伊藤博文は、イギリス型の議会制民主主義の道を志向し、最終的には政党政治を目指す。だが、同じ長州出身の元勲でも軍人としてのし上がってきた山県有朋(やまがた・ありとも)は違った。内閣は、政治集団(政党)の政争から距離を置き、強権で政策を進めるべきだと主張した。ことあるごとに伊藤と山県は対立するようになる。
 憲法に基づいて帝国議会を開き国家体制が整ってまもない日本は朝鮮半島をめぐる利権争いから清国と戦争に突入し(日清戦争、1994〜95年)勝利するが、残された莫大な戦費負担が国家財政を破綻の危機に追いやる。
 1898年(明治31年)、伊藤博文内閣は、国税の基礎である地租を地価の2.5%から3.7%に引き上げる法案を国会に提出したが否決された。伊藤は後継内閣を、板垣退助の憲政会と大隈重信の改進党の連立に託した。政党を中心に政治主導権を移動させる政党政治の前例を作る試みだ。
 これに反発する山県は露骨に政治に介入し、工作の限りを尽くして隈・板内閣潰しに動く。
 
 アメとムチ
 山県の思考回路は軍人的だ。決定と命令は上から下へ垂直に落とせばいい。トップに神聖で犯すべからざる権威(明治憲法下では天皇)を戴いていれば、もっとも効率的に軍隊組織は動く。政治も同じだと考えるのが山県流だ。ましてや、高額納税者にのみ参政権が認められている体制で、投票者の多くは土地持ちで地租の増額に反対するのは当然だ。
 ぐずぐずしている間に株価も下がり始める。山県は大隈と板垣の不和に乗じて連立内閣を潰し、自ら内閣を組織する。そして強引に工作を進める。
 まず、議員歳費を引き上げた。実質的に議員たちを買収し黙らせた。これがアメとすれば、ムチも用意した。ムチという意味は、これが国民の気付かぬ間に、国家体制の根幹に埋め込まれ、軍部の独裁を許すことになったからだ。
 山県は首相として、陸軍大臣、海軍大臣の資格を現役の大将、中将に限定する「軍部大臣現役武官制」の制定を国会に飲ませた。のちの歴史を知るわれわれは、これが軍のシビリアンコントロール(文民統制原則)を失わせ、昭和の軍部独走を許し国を破滅させた大きな過ちであったと気づくのである。
 たしかに民主主義というものは面倒なものである。一つの決断を下すのに多くの手続きと回り道、妥協も必要だ。しかし軍隊と政治は違う。面倒な手続きがあればこそ、将来について政治は民意を反映して正しい方向に導くことができる。そのことを戊辰戦争の東山道司令官、日清戦争第一軍を指揮した成功体験に酔った山県は気づかぬまま、軍隊式に明治国家のあり方を規定し、国の方向を誤導した。
 あらゆる組織で民主的手続きは面倒なものである。だからと言って役員会、理事会において、上からにらみを利かせて黙らせているばかりでは、会議は機能しない。トップが誤った場合、悲惨な結果を招いてしまう。軍隊の効率性と一般組織の効率運用は似ているようで違う。
 
 誤った富国強兵
 尊王の志士として政治活動をはじめた山県には、明確な国家観があった。天皇を権威としていただいて、全て国民が結束して動く、それによって「富国強兵」は効率的に成し遂げられると信じた。政党政治は混乱の原因となると考えた。
 であるが故に、山県は、国家発展のモデルと考えた西欧の社会で起きつつある大衆社会化現象と、もの言う労働者が引き起こしつつある君主制の危機におびえともいえる危機感を抱くようになる。
 首相の座を離れた山県は元老として院政を敷いた。社会が要求する政党政治に背を向けて、首相の座に意のままに動かせる藩閥出身者、軍人を据えた。山県の恐怖政治は、社会に広がりつつあった無産運動弾圧に動くことになる。1910年(明治43年)、無政府主義指導者・幸徳秋水(こうとく・しゅうすい)らの動きに過剰反応し、内務省に指示して「天皇爆殺計画」を拡大捜査し、全国の社会主義者らを一斉に大逆罪で検挙した。大逆事件である。幸徳ら26人が非公開裁判で有罪判決を受け、12人が死刑となったが多くは冤罪だと見られている。
 事件後まもなく明治時代は幕を下ろす。時代は、国民が広く民主主義を求める大正デモクラシーの時代へと動いていく。
 
(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
 
 
※参考文献
『山県有朋』半藤一利著 ちくま文庫
『山県有朋と明治国家』井上寿一著 N H Kブックス
『日本の近代2 明治国家の建設』坂本多加雄著 中公文庫

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