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人間学・古典

第10回 リーダーの資質 李克の人物鑑定法

経営に活かす“十八史略”

人が集まってくれば、おのずと事業規模は大きくなっていきます。小規模なうちは自分1人でまとめていても、大きくなるとそうはいきません。どうしても自分の代わりにまとめてくれる人が必要になります。

前漢の高祖、劉邦(りゅうほう)は優れた人物鑑定眼をもっていたのか、適材適所が行き届いていました。作戦立案は張良(ちょうりょう)、内政面は蕭何(しょうか)、軍の大将には韓信(かんしん)といった具合です。

しかし、天下を平定した後はうまくいきませんでした。次に誰が謀反を起こすか、自分を狙ってくるのは誰かと人を疑い、粛清を始めたのです。韓信は殺され、蕭何も危ういところでした。

主君を狙うような欲深い家臣では、どんなに能力が高くても高官にすることはできません。徳の高い人物を起用しなければならないのです。

戦国時代、魏(ぎ)の文(ぶん)侯を助けて政治改革を推し進めた李克(りこく)の例を見てみましょう。

文侯は宰相に登用する人物について李克に尋ねました。

 「先生はかつて私に、『家が貧乏になると良妻が必要だと思うように、国が乱れると名宰相が必要だと思うものだ』とお教えになった。

 そこで相談なのだが、今、宰相の候補は、魏成(ぎせい)か翟璜(てきこう)のどちらかしかいない。2人のうち、どちらがよいだろうか」

李克はこう答えます。

「その人が仕えないで家にいる場合は誰と親しくしているか。

 すでに金持ちになっている場合は何に金を使っているか。

 すでに高位についている場合は誰を登用しているか。

 窮地に陥っている場合は道に外れた行為をしていないか。

 貧乏な場合は筋の通らないものを受け取っていないか。

 以上の5つの視点で見て、申し分のない人物を選ぶならば満足な人事が出来ます。

 ところで、わが君が師と仰がれる人物である子夏(しか)、田子方(でんしほう)、段干木(だんかんぼく)の賢人は、魏成が推挙した人物であります」

 そこで文侯は、「誰を登用しているか」という点から魏成を宰相としました。

  李克は一貫して発言内容よりも行動の中身を重視しています。確かに口先では何とでもうまく言えるので、言葉は判断基準とはなりにくいのです。

 では行動面で、真面目な人物のふりをすることは出来ないかというと、出来ないことはありません。しかし、一時的には可能でもこれを続けるのは極めて困難であり、いつかボロが出るもの。李克の判断基準は現代でも十分、使えます。

 李克の五つの視点を現代風にアレンジしてみましょう。

  ・プライベートでは誰と親しくしているか。

  ・お金をどんなことに使っているか。

  ・普段、誰を優秀だと口にしているか。

  ・困ったときにはどのような対処をしているか。

  ・陰でワイロをもらうなどしていないか。

 高潔な人間かどうかは、これらのポイントをチェックすれば分かるでしょう。

 社長を補佐し、社員をまとめあげる役割を担う者の人格レベルが高くないと、会社全体がおかしくなってしまいます。つい業務遂行能力の程度ばかりを見てしまいがちですので、人事評価制度では人間性をチェックする項目をしっかりと設けておいてください。

 
 
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