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国のかたち、組織のかたち(11)民意のありかと政治

指導者たる者かくあるべし

 米大統領選挙の盛り上がりを見るにつけ

 連日伝えられる米大統領選挙の報道にくぎ付けになる。8月19日に始まった民主党大会会場のお祭り騒ぎには圧倒される。主権者である国民と政治の距離が近い。

 日本でも自民、立憲民主の与野党第一党で総裁、代表選挙の前哨戦が始まっているが、盛り上がりに今ひとつ欠ける。特に自民党の総裁選立候補予定者の報道番組での取り上げは、「イケメンであって総選挙の顔としてふさわしい」とか、「高い身長」「立派な学歴」ばかりが紹介される。娘のムコ選びでもあるまいし、国民が聞きたいのは、彼らが打ち出す政治信条と具体的な政策なのだ。

 考えてみれば岸田文雄首相が総裁選への不出馬に追い込まれたのは、「政治とカネ」の問題と、自民党と一部の宗教団体との不透明な関係だったはずだが、後継総裁、つまり次期首相候補の面々は、「国民の党への信頼を取り戻すための抜本的改革」をいうばかりで具体策は何も語らない。野党にしても、年内にも行われると見られる総選挙での首相奪還に向けて大きなチャンスであるにも関わらず、野党間の選挙協力も含めての具体策を示せないでいる。

 与野党ともに、抜本的な政治改革を願う、怒りに満ちた民意に応える用意がないように見える。

 日米の政治リーダー選びでの盛り上がりの差は、直接リーダーを選ぶ大統領制か、間接選挙による議院内閣制かの差も大きいが、それだけではない。今から134年前の1890年(明治23年)に帝国議会(国会)が開設され経緯に遡って、政治が本気で民意を汲み上げる意思があったかどうかにかかっているように思えてならない。

 板垣退助の主張

 「明治6年(1873年)の政変」で政府要職の参議を辞職して下野した板垣退助(いたがき・たいすけ)は同年、同じく土佐出身の後藤象二郎(ごとう・しょうじろう)らと共に、「民撰議院(国会)設立建白書」を起草し、政府に提出した。

 「臣等伏シテ方今権の帰スル所ヲ察スルニ」(陛下の臣下として、今の権力のありかを考えますと)で始まる簡潔な名文だ。以下、現代文で書くと。

 「上は天皇、朝廷にあるわけでなく、下は国民にあるわけでもない。実権はただ、(薩長藩閥が握る)政府の高官たちが独占している」

 「政策はコロコロ変わり、政治は情実によって動く。賞罰は薩長の高官の思いのままで、言論の自由は封殺されていて、国民は苦しさを訴え出る方法がない」

 「我らは、愛国の情を止めることができず、これを乗り切る方法を考えると、ただ国中の意見(民意)を集める方策を立てるしかない。民意を集めるには、民選の議員による議会を設置するほかない」

 明治政府は、「時期尚早である」としてこれを無視した。野に下った板垣らは、国会開設を求めて大衆運動(自由民権運動)に乗り出す。

 有権者わずか1%での出発

 当初、不平士族にとどまっていた賛同者は、やがて、重税に苦しむ農民や一般国民、商工業者にまで広がる。事態を動かしたのは、間接的ながら外圧だった。明治政府の最大の懸案は、不平等条約の改正だったが、関税自主権の回復、治外法権の撤廃のためには、三権分立体制の確立、と国の基本法(憲法)の制定と諸法律の整備が課題となることに政府中枢は気付く。立憲体制の確立だ。司法権は裁判所制度の創設で目処がついたが、残る課題は、憲法の制定と立法権を担う国会の開設となる。なんともこの国では、重大な国の進路の変更、重大決定は外圧によらなければ進まない。

 伊藤博文(いとう・ひろぶみ)らが動いて、1881年(明治14年)10月、明治天皇が詔(みことのり)を発して、1890年(明治23年)までに、国会を開設し憲法を制定することを国民に約束した。

 貴族院と衆議院からなる二院制の帝国議会が開かれることになったが、民意に関わる衆議院の有権者は、国税納税額15円以上の25歳以上男子に限られる。第一回総選挙の有権者は約45万人で、当時の総人口約4千万人のわずか1.1%にすぎなかった。

 国民を愚民視する明治政府が作り上げた立法府は、とても民意を集約する機能を果たし得なかったことを知っておく必要がある。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

(参考資料)
『日本の近代2』坂本多加雄著 中公文庫
『日本の歴史 20 明治維新』井上清著 中公文庫

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