昔から家憲・家訓は日本人には馴染み深く、江戸時代に作られた三井家、
またキッ コーマン茂木家のものなどがつとに、よく知られている。
私自身小堀遠州の家訓について以前取材したことがあり、
400年前の知恵が現在にも生かされていることに感銘を受けたものである。
海外ではと言えば、ロックフェラー家の家訓は承知していたが、
西洋では一般的にこうした類はなじまないのかと思っていた。
ところが最近は世界の富裕層アドバイザーたちが
「家訓、或いはミッションステートメントの作成」をクライアントに対し盛んに呼びかけている。
前回ご紹介した大資産家の相続問題やファミリーガバナンス問題を幅広く扱う国際弁護士のバーバラ・ハウザー氏は
更に一歩すすめ、近著のなかで国の憲法に相当する家族の憲法、家憲の制定を勧めている。
家憲と言っても日本のそれよりずっと実務的かつ具体的である。
「家憲の作り方」について、彼女はまず、ファミ リーの意思決定機関を定める、侵すことができない個人の基本的な権利を
定める、不満、苦情の処理、ファミリー企業に入社・経営に参加する際の要件等について明確にすべきだと主張する。
非常に興味深いのはハウザー氏が併せて、改正の手続き、要件等を含めるよう促していることである。私も同意見である。
時代とともに変わる情勢に対応するのに、従来は家憲をその時代時代に合わせて解釈するという方法をとってきたが、
しかし激変の昨今それではあまりに無理があるように思える。
また改正の可能性をもたせることはそれぞれの世代がより家憲を強く意識しそれに従おうとするようになるのではないだろうか。
家憲は家長を含めたファミリー全員による遵守が前提とされる。
が、いったいワンマンで強大な権力をもつ家長が本当に従うだろうか。
この点についてハウザー氏来日の折夕食をともにしながら聞いてみた。
「彼らは権力を持っているだけにその乱用による重大な結果に気づいているのよ」と彼女。
実際、多くのファミ リービジネスがファミリーガバナンスの欠如から危機にさらされてきた。
家憲がそれを未然に防ぐ手立ての一つになってくれたらと願う。
榊原節子