尖閣諸島領土問題をめぐって、日中双方のナショナリズムの応酬が目立つ。10月以降、日本国内で確認された「反中デモ」は東京、沖縄、大阪、名古屋、高 松、横浜など10回もあった。一方、中国国内で確認された「反日デモ」も成都、西安、鄭州、綿陽、武漢、徳陽、蘭州など9回にのぼる。
ナショナリズムは、国が急ピッチで台頭するとき、また国内に長引く不景気で不平不満が高まっているときに起きやすい。中国は急成長期だし、日本は長引く 不況にあるから、どちらもナショナリズムが起きやすい時期だ。日中両国で起きた今回のナショナリズムは、相手の立場を考える余裕の無い“思春期”のナショ ナリズムである。本来は自分の主張はしっかり主張しながらも、相手の立場も考える“熟年期”のナショナリズムが健全なのだが、残念ながら今回のナショナリ ズムは明らかに「成熟さ」に欠ける不健全なものである。
中国の内陸地域の反日デモでは、「日本製品を買うな!」というプラカードを掲げデモ行進を行う中国の若者の姿は際立ち、日本企業に衝撃を与えている。中国の巨大市場を狙って現地に進出しょうとする日本企業には動揺が広がり、私のところへの相談も相次いでいる。
中国に本当に「日本製品不買運動」が起きるか?私見だが、日中間の大規模な軍事衝突が起きない限り、中国に「日本製品不買運動」が起こらないと思う。テ レビに映った「日本製品を買うな!」と叫ぶ若者は、実は極めて少ない。しかし、テレビのスクープ映像として映ると、視聴者にそれが中国の若者たちの全体像 だと誤解されてしまう。マスコミのミスリードは実に恐ろしい。
私の実体験を紹介する。2005年、当時の小泉首相の靖国参拝を引き金に、日中関係は大いに悪化し、北京、上海、深圳で相次いで大規模な反日デモが発生 した。その時も「日本製品ボイコットせよ」というプラカードを掲げる大学生の姿がいた。当時、日本企業は「日本製品不買運動」が起きるのではないかと心配 していた。しかし、私は実際に中国の大学生たちに接すると、理性的な大学生が大多数であることがわかった。
2006年11月、私は山東省政府の招待を受け、中国労働人事省、国家外国専門家局、山東省政府が共同主催する第4回山東省国際技能人材交流・技術商談 会に出席した。山東省の省都済南市には、長い歴史がある山東大学があり、滞在中、私はそこで「日中関係の行方と日本の対外直接投資」と題して約300人の 学生の前で2時間にわたり講演を行った。
講演後の質疑応答の際、ある学生から「日本製品不買を唱える人がいる。先生はこのスローガンをどう見ておられるか?」という質問を受け、私は次のように答えた。
「昔、抗日戦争のとき、このスローガンは確かに愛国主義的な表現だったが、今は違う。日中経済が互いに深くビルドインされている現在、日本製品不買は誰 のためにもならない。実は多くの日本製品はメイド・イン・チャイナであり、中国に進出した日系企業が作ったものである。これらの日系企業は合計3万社、創 出した現地雇用は200万人、下請けを含むと900万人。日本製品の不買で3万社の日系企業が経営破たんになれば、数百万人が失業し、大きな社会不安要素 になりかねない。中国は大きな被害を受けることになろう。これは本当に「愛国」と言えるだろうか?いまこそ日中双方はマイナス発想を捨て、新しいステーク ホルダー関係を構築すべきではないか」と。
こう答えると、予想外に会場から大きな拍手が起きたのだ。若い学生たちが私の立場を理性的に受け入れ、理解してくれた感動的な一幕であり、本当に嬉しい思いだった。
中国の諺が言う。「月には陰(曇り)晴円欠あり、人間には悲歓離合あり」。日中関係も同じく山も谷もある。しかし、たとえ谷があっても挫折があっても、中国の若者を信じてほしい。彼らの大多数は理性的である。