私たちは後継者に、リーダーシップを発揮して会社を率いていってくれること、個人としての幸せを願い、更に次世代が活躍する世の中が平和であれと希求する。
グーグルの人材開発カリキュラムはまさにそのようなニーズを念頭に組成されたようだ。
『サーチ・インサイド・ユアセルフー仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法』にその詳細が紹介されている。この本はグーグル社のエンジニアの重鎮チャディー・メン・タン氏が、EQのパイオニアと言われるダニエル・ゴールマン、禅の世界的な権威などの協力のもと開発したカリキュラムの紹介である。
瞑想を始めとする数々の手法やエクササイズを通して心が清明になるだけでなく、幸せ感が増し、人間関係がスムーズに、リーダーシップ力が醸成され、ひいては世界平和にも貢献するという壮大なシナリオのもと作られたそうだ。グーグルでは受講希望者が殺到し、アメリカンエクスプレス、インテルなどの企業にも広まっている由。
ちなみにマインドフルネスは「気づいていること」「注意深いこと」といった意味で「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価せずに、とらわれない状態で、ただ観(み)ること」と日本マインドフルネス学会では定義している。
私がグーグルという会社に非常に興味を抱いていた一つの理由が、革新を促すために、自社のエンジニアが就業時間の20%を各自のコアとなる仕事以外のプロジェクトに使うことを認めているということからである。そしてこのプログラムは、その「20%の時間」を使って創り上げられた。エンジニア、しかも組織の長、管理業務を熟知している人が作ったのがポイントだと思った。とにかくわかりやすく、簡単に即実践できるのである。
例えば瞑想のやり方は非常にシンプル。2分間自分の呼吸に意識を向けるだけでいいという。正確には呼吸に意識を向けることと、意識を向けているかどうかチェックする意識だけでOK。雑念に邪魔されても、運動と同じで、呼吸に意識を戻す度に筋肉が増強されると思えばいいと説く。2分という短さ、更に雑念が生じることをポジティブにとらえており、初心者にも取っつきやすい。
「誰であろうと人と会ったらかならず、『この人が幸せになりますように』と、まず反射的に思う習慣が身についていて欲しい」というのもシンプルでかつ大胆、職場の雰囲気が劇的に変わるに違いない。
怒りなどの情動については、「情動を高解像度で知覚する能力を育むには、マインドフルネスを体に向けることだ。怒りを例にとれば、自分の心をたえず観察し、怒りが心に湧き起こる瞬間を捉えられるように、自分を訓練できるだろう」という。そもそも怒りは自分自身に理由がある場合が多く、それに気づけば怒りを成長の糧とすることが可能だ。
「思いやりを持ち共感できる人材・リーダーになるため」のエクササイズもシンプルでわかりやすく、すぐ実践することができる。
このように実業の世界、組織の世界を知っている人の書いた啓発書には説得力がある。中村天風の3部作「成功の実現」「盛大な人生」「心に成功の炎を」は数多くの経営者の愛読書となっているが、それは彼自身が軍事探偵として、その後は悪化する結核患者として救済を求めて世界をさ迷い歩き、帰国したのちは起業、会社経営を幅広く経験する、そうした経験に基づいた上での著作であるからだと思う。
中村天風もまた今でいうマインドフルネスを提唱している。「今やっている事にしっかり意識を傾ける」ことは実は記憶が定かでなくなる高齢者にとってまさに実践すべき生活態度でもある。
ライフスタイルアドバイザー 榊原節子