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国のかたち、組織のかたち(82) 強大な相手と対峙する⑧(外交アンテナの活用)

指導者たる者かくあるべし

 遣唐使の役割

 古くは邪馬台国時代、そして5世紀の倭の五王時代も含めて、わが国の外交の主な舞台は、身近な隣国である朝鮮半島諸国、そしてその奥に控える中国歴代王朝との関係である。

 とりわけ中国大陸に巨大な統一国家の唐が生まれた7世紀の日本外交では、対唐関係の安定が最大の課題だった。初めて内外に天皇号を名乗った天智が白村江での敗戦後に唐の侵略に脅えるほど、中国との関係をこじらせると国の存立危機事態を招く。

 倭国(その後の日本)は、聖徳太子が摂政を務めた6世紀末以降、唐の前身である隋の王朝以来、定期的に遣隋使船、遣唐使船を送り出してきた。

 600年に派遣された最初の遣隋使から、838年の最後の遣唐使まで、200年以上にわたり20回前後に及んだ。その役割について教科書的に言えば、「留学生、留学僧を通じて先進中国の法治国家制度(律令制)、仏教文化、文物の受容に努めた」となる。確かに、推古女帝時代の遣唐使船で派遣され623年に帰国した薬師恵日(くすし・えにち)は、「大唐国は、法式(のり)定まれる珍国(偉大な国)なり。常に通うべし」と報告している。後進国として学ぶべき手本だから、遣唐使は大事だと強調している。

 しかし、遣唐使の役割は、先進国への留学生派遣使節に留まらない。国際情報収集のための定期的なシャトル外交船として機能していた。

 天智外交から天武外交へ

 わが国にしてみれば、重大な国益に関わる朝鮮半島に対する唐の外交戦略と、唐国内の政治状況を探る目的が大きかった。唐にしてみても、半島諸国と一定の関係を持つ日本の出方を見極めて、自国有利に誘導する狙いがある。両国ともに外交情報ツールとして使いでがあったわけだ。

 半島内の情勢が微妙だった斉明女帝―中大兄(天智)執政下の659年に派遣された第4次遣唐使の一行は、唐が計画していた百済討伐軍派遣の情報が漏れるのを恐れた唐によって二年に渡り帰国を許されず抑留されている。この間に斉明朝は、唐出兵の狙いを知らないまま、百済救援を決断している。外交情報の欠落が、国を危機に陥れている。

 白村江敗戦後、天智は、665年、667年、669年と2年おきに三度の遣唐使を派遣し、唐もこれを受け入れている。天智としてみれば、唐の列島来襲を外交的に阻止するとともに、敗戦後も百済復興の機会を探ろうと試みている。唐は、高句麗攻略に向けて、外交圧力をかけながら倭国軍の再派兵を封じ込めたい。戦後三度の遣唐使は、激しい外交舞台となったに違いない。

 壬申の乱(672年)で天智没後の近江王朝軍を打ち破って政権を掌握した天武の時代に、半島をめぐるわが国の外交戦略はがらりと変わる。

 戸籍の整備を通じて有事の徴兵と労役動員の体制を強化することによって国防を強化しながらも、半島の軍事情勢からは距離を置くようになる。

 遣新羅使―朝鮮半島外交の転換

 具体的には、半島を統一しつつあった新羅との対等外交関係の樹立だ。新羅による半島統一(673年)の動きを見るや、遣唐使を中断する。その代わりに天武とその死後の妻持統の両政権は、天智時代に険悪な関係となった新羅と対等な外交関係を維持し、盛んに遣新羅使を派遣するようになる。油断ならない大唐帝国の動きは、新羅との友好関係を通じて怠りなく入手することとなる。

 近年、日本を取り巻く外交情勢は不確実性を増している。唯一の同盟国である米国は、トランプ政権となって何を言い出すかわからない。中国の習近平政権も同様である。一衣帯水の朝鮮半島の北半分を統治する北朝鮮の核武装強化は危険極まりない。

 歴史を教訓化するなら、最も近い韓国との関係を緊密にし、情報を共有する必要がある。奇妙とも見える米中二大国の動きに情報収集アンテナを高くしておく必要がある。

 強い外交力とは、情報収集力量の上にこそ成り立つものなのだ。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※参考資料
「遣唐使」東野治之著 岩波新書
「日本の歴史2古代国家の成立」直木孝次郎著 中公文庫
「日本の歴史03 大王から天皇へ」熊谷公男著 講談社学術文庫

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