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交渉力を備えよ(31) 自信をもって説得する

指導者たる者かくあるべし

 米国のユダヤ資本家であるクーン・ローブ商会の参戦で、高橋是清が目論む戦費調達の公債発行は一気に流れに乗った。

 同商会を率いるヤコブ・シフは米国内の大陸横断鉄道の敷設権を巡って、JPモルガングループを相手に仕手戦を仕掛けるしたたかな金融家である。そのシフが、ロンドンで発行される日本公債の半額を引き受けるという噂はすぐさまシティの投資家に広がる。

 「あのシフが一枚噛んだとなると儲け話に違いない」。それまで二の足を踏んでいた投資家たちから、「日本の公債話に参加させろ」と、公開前から問い合わせが殺到した。

 影響は金融界にとどまらなかった。英国が単独で日本への巨額の資金調達を支援していいものかと慎重だった英国政府も、英米協調融資となり、外交リスクの軽減に安堵した。

 引受銀行団と日本政府の仮契約もすまない5月6日、英国国王のエドワード7世は、シフを午餐会に招待し、謝意を示している。

 米国の二大金融グループの一つが参加することで、日本政府は苦しい日露戦争で、中立の米国も外交的に味方とすることになる。

 しかし現場の高橋是清には、公債の発行条件の細部の詰めが残されている。

 まだ、クーン・ローブ商会の影が見えない4月中旬。英国内の銀行団から、公債発行条件として政府の担保を要求してきた。それほど日本という国家への信用は乏しかった。

 高橋は本国の承諾を得て、関税収入を担保として差し出すことにした。すかさず銀行団側から、「担保に差し出すなら英国から日本へ税関管理の人を出したい」と逆提案が出る。「中国に対してもそうしている」と強硬であった。

 やっとの思いで維新前の混乱期の不平等条約を解消したのが“元の木阿弥”となりかねない。内政干渉につながる事態だ。高橋は提案を言下に拒否して強く主張した。

 「日本政府は従来、外債に対して元金利払い共に一厘たりとも怠ったことはない。外債のみにあらず。内国債でも同じだ。それを支那(中国)と同一視されては甚だ迷惑である」

 毅然とした高橋の口調に気圧されして、税関管理案は取り下げられた。

 苦しい交渉であればこそ、光明が見えると妥協の一語がちらつこう。そんな大詰めでこそ譲れぬものは譲れぬとの気迫は大事なのだ。

 初めが肝腎。その後の交渉でこの話が蒸し返されることはなかった。  (この項、次回に続く)

 

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※    参考文献

『高橋是清自伝(上、下)』 高橋是清著 上塚司編 中公文庫
『日露戦争、資金調達の戦い―高橋是清と欧米バンカーたち』 板谷敏彦著 新潮選書
『日露戦争史』横手慎二著 中公新書

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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