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究極の経営者・稲盛和夫の「身も蓋もない質問」

楠木建の「経営知になる考え方」

「手段の目的化」という病

 私見では、経営上の問題の7、8割はつまるところ手段の目的化に起因している。「コンプラ」と言いながら、明日のメディア記事で批判されないことを目的にする。「サステナ」と言いながら、統合報告書にそれっぽい数字を盛り込むことを目的にしてしまう。いずれも手段の目的化だ。コンプライアンスがコンプラ、サステイナビリティがサステナ――四文字に短縮されるようになると、手段の目的化の香りが漂ってくる。胡散の臭いがしてくる。

 その理由はどうしようもないほど単純だ。そもそも組織というものが手段を目的化していく体系に他ならない。上司の手段が部下の目的になる。目的を手段に下ろしていくという連鎖で組織は動いている。組織で仕事をする以上、放っておけば必ず手段は目的化する。

 どこかで誰かが本来の目的と手段の関係を取り戻していかなければならない。あらゆる手段は最上位にある目的を最も有効かつ効率的に実現するものでなければならない。組織の中で分散している手段を本来の目的の達成へと巻き取っていかなければならない。ここに優れた経営者の条件がある。

究極の経営者・稲盛和夫

 昨年、稲盛和夫が遺した『稲盛和夫の実学』の新装文庫版が出た。この名著の解説を書くというありがたい機会を得た。本書を改めて読んで、稲盛和夫が究極の経営者だったことを痛感した。

 「これまでこうやってきたから」「この仕事はこうやることになっているから」――慣習や思い込みが手段の目的化を招く。27歳で京セラを創業した技術者の稲盛は、「経営の常識」に触れたことがなかった。これがかえって幸いした。経営のあらゆることについて完全に納得してから判断しようとした。正しい目的を定め、目的に忠実に手段を選ぼうとした。

「お金はどこにあるのか」

 企業を長期的に発展させるためには企業活動の実態が正確に把握されなければならない――ゼロから経営を学んでいく過程で、稲盛は気づいた。すなわち会計である。自分が予想したものと実際の決算の数字とが食い違うと、すぐに経理の担当者から詳しい説明を求めた。稲盛が求めていたのは、会計の教科書的な説明ではなかった。会計の本質とそこに働く原理だった。しかし経理の担当者からは「会計的にはこのようになる」という説明しか返ってこない。納得できない稲盛は「なぜそうなのか」と得心するまで質問を重ねた。

 「なぜこんな伝票を使うのか」「経営の立場からはこうなるはずだが、なぜ会計ではそうならないのか」――「とにかく会計ではそういうことになっているんです」と会計担当者が音を上げても、「それでは答えにならない。経営者が知りたいことに答えられないような会計では意味がない」と食い下がった。

 本書にある「お金はどこにあるのか」という稲盛の素朴な問いはその真骨頂だ。期末の決算報告を終えた経理部長に対して、稲盛は「儲かったお金はどこにあるのか」と尋ねた。経理部長は「利益は売掛金や在庫、設備などさまざまなものに姿を変えているので、簡単にどこにあるといえるものではない」と答える。

 稲盛はさらに踏み込んで「利益から配当しなければならないと言うが、それだけの金がどこにあるのか」。経理部長は「配当資金は銀行から借りる予定である」――稲盛にはこうしたことが非常に不思議に思えた。配当するお金がない。わざわざ銀行から借りて配当する。これは果たして「儲かった」といえるのだろうか。「はい、それでも儲かったというのです」が経理部長の答えだった。

手段の目的化を断ち切る経営システム

 会計上の利益は「意見」に過ぎない。お金の在処はキャッシュフローに現れる。キャッシュフロー計算書を見て初めて現金及びその等価物の合計であるキャッシュの総額が把握できる。そこにあるキャッシュはまぎれもなく存在する本当の「お金」だ。

 キャッシュがリアルタイムで把握できていなければ、会社を経営することはできない。だとすれば、会計上の利益と手元のキャッシュとの間に介在するノイズをできるだけなくすことが肝要になる――こう考えた稲盛は「キャッシュベースで経営する」という原則にたどり着いた。京セラでは、米国方式のキャッシュフローの会計報告を1990年から実施している。「お金はどこにあるのか」という身も蓋もない問いを起点にして、手段の目的化に流されず、その誘惑を断ち切る経営システムを練り上げる。この成り行きに稲盛の経営者としての本領を見る。

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