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第154回 山代温泉(石川県) 古き良き時代の温泉風景「湯の曲輪」

高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』

■北陸の温泉街の原風景

 北陸を代表する名湯、1300年の歴史を誇る山代温泉には、共同浴場を中心に旅館がぐるりと取り囲むように立ち並ぶ「湯の曲輪(がわ)」という北陸の温泉地特有の街並みが残されている。

 旅館の湯治客や地元の人が共同浴場に通い、湯浴みを楽しむ。まさに日本の温泉地の原風景そのもの。共同浴場は湯の曲輪のシンボルであり続けたわけだ。

 初めて山代温泉を訪ねたのは2008年のこと。かつて温泉街の中心にあった共同浴場(総湯)を訪ねたことがあるが、正直言うと、コンクリートづくりの味気ない施設であった。温泉街の雰囲気も賑わいがあるわけでも、趣があるわけでもなく、どこかさびれた印象があった。

 だが、2010年にコンクリートの共同浴場は建て直され、「古総湯」として生まれ変わった。古総湯は明治時代の総湯(共同浴場)を復元したもので、杮葺きの屋根が印象的な2階建ての木造建築である。

■明治時代の入浴作法を再現

 古総湯が誕生した後の山代温泉を訪ねた。筆者が知るかつての温泉街にはなかった湯の街情緒が、そこにあった。温泉街の中心に位置する共同浴場が風情ある建物に変わっただけで、こうも風景が一変するのだろうか。夜、ライトップされた古総湯も幻想的で美しい。

 浴室の床や壁の九谷焼のタイルも当時のまま復元されている。明治時代は最先端だったであろう色とりどりのステンドグラスが湯船の水面に映り、幻想的である。かつては相当モダンな共同浴場だったと想像できる。

 外観や内装だけでなく、「温泉に浸かって楽しむだけ」という明治時代の入浴作法も再現されている。昔ながらの脱衣所と浴室が一体となったつくりで、カランやシャワーなどもない。ただ、湯に浸かるだけのシンプルな空間というのも潔い。

 当時の入浴作法を再現しているのだから、当然、無色透明の硫酸塩泉はかけ流しにされている。2008年の総湯を訪れたとき、筆者はノートにこんなメモを残している。少し長いが引用しよう。

「浴室は、四方をたくさんのカランとシャワーが囲み、多くの入浴客が訪れても混雑しないキャパを誇る。湯船は円形のタイル張りが大小2つあり、大が20人、小が15人ほどのサイズ。湯船中央の底から、ボコボコと勢いよく透明の硫酸塩泉が湧き出ているが、オーバーフローは見られない。加水、循環ありで、塩素の匂いも少し気になるのが残念。温泉の特徴もほとんど確認できなかった。

 なお、今の建物はだいぶ古くなったようで、隣の敷地に新しい総湯を建設中だった。今は基礎工事の途中のようだが、来年あたりにはオープンだという。新しい総湯はぜひ全面かけ流しにするか、小さくてもいいので、源泉100%の湯船をつくってもらいたいものだ」

 見事、湯使いについても期待に応えてくれたということになる。山代温泉にかぎらず、高度成長期やバブル時代を経て、全国の温泉地で老朽化した共同浴場や温泉旅館が建て替えられてきたが、個性のない画一的な温泉施設になってしまったところが多い。その過程でかけ流しから循環ろ過の湯船になったケースもある。

 現代のニーズに応えることも必要だが、歴史を守ることも大切である。山代温泉が歴史にスポットライトを当てた街づくりをしていることに拍手を送りたい。

■北大路魯山人ゆかりの宿

 そんな山代温泉を代表する宿のひとつが、湯の曲輪に面した老舗旅館「あらや滔々庵」である。18代を数える老舗宿で、北大路魯山人ゆかりの宿として知られる。山代温泉の旅館は循環ろ過されているケースが多いが、湯元だけあってすべての湯船がかけ流し。その名のとおり、滔々と源泉が湯船からあふれ出ている。

 かつて同宿の源泉から総湯へ、そして総湯から各宿へ配湯していたため、総湯を囲むようにして宿が建ち、街並みがつくられたという。そんな歴史に思いを馳せながら入浴するのも楽しい。

 

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