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第156回 式根島の温泉(東京都)――小さな島に湧く野趣あふれる露天風呂

高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』

■東京とは思えない「海の秘湯」

意外に思われるかもしれないが、東京にも野趣あふれる絶景温泉がある。伊豆諸島を構成する島のひとつで、美しい景観や海水浴場が観光客の人気を集める式根島(東京都新島村)は、周囲12㎞と小さな島ながら、野趣あふれる露天風呂が3カ所ある。

 

夜、東京の竹芝桟橋から大型客船さるびあ丸に乗船すると、約10時間後の朝、式根島に到着する。デッキに出ると、太陽の光でキラキラ輝く海面の向こうに、断崖に囲まれた野伏港が見えてくる。紅色の灯台が旅情をそそる。ちなみに、季節により運航する高速ジェット船なら約3時間の距離だ。

 

野趣あふれる露天風呂は島の南岸に集中している。「地鉈温泉」「足付温泉」「松が下雅湯」は式根島の三大露天風呂である。

 

「地鉈温泉」と「足付温泉」は気軽に入浴できる湯船ではない。波打ち際の岩場に湯船があるため、海水の入り方によって泉温が変わる。潮の干満によって入浴に適した時間が異なるのだ。まさに天然の「海中温泉」といえる。

 

■海中温泉の湯加減は潮に聞け

特に地鉈温泉のロケーションは格別だ。その名の通り、地面を巨大な鉈で割ったかのようなV字の谷に湧く温泉で、急な階段を下りていくと、岩場から約80度の赤茶色の湯が湧いている。

「温泉に入るのが日課」と話す宿の主人から、満潮の前後1時間半が入浴に適していると聞き、時間を合わせて向かったが、実際には熱い湯とぬるい湯が混在している。岩場を歩きながら適温の場所を探して入浴した。地元の人いわく「湯加減は潮に聞け」。一筋縄ではいかないのも海中温泉の魅力である。

 

海水並みに塩辛い湯は成分が濃厚で、数分つかっているだけで額に汗がにじむ。地元では地鉈温泉は「内科の湯」、足付温泉は「外科の湯」と呼ばれ、古くから住民の「命の泉」であった。島の温泉で出会った地元の皆さんが実年齢より若々しく見えたのも納得だ。

 

波打ち際にある「地鉈温泉」と「足付温泉」は、ロケーション的には魅力的だが、いかんせん入浴できる時間が限られ、少なからず冒険の要素がある。誰にでもおすすめできる温泉とはいえない。

 

一方で、より気軽に入浴しやすいのが、もうひとつの露天風呂「松が下雅湯」である。その名の通り、松の木の下に湯けむりをあげる。

 

先の2つと違って潮の干満に関係なく、24時間入浴できるため、地元の人や観光客でにぎわう。泉質は地鉈温泉と同じで、褐色に濁ったパンチのきいた湯がかけ流しにされている。

 

「式根松島」と称される海の景色を眺めながらの湯浴みは最高だ。体が熱くなったら海の風で涼む。そんなぜいたくな時間を過ごしていたら、あっという間に時間が過ぎていく。夜、満天の星を拝みながら入浴するのもおすすめだ。灯りの少ない島だから、その分、星が無数に見えるという。

 

3つの露天風呂はいずれも混浴のため水着着用がマナーだが、友人や家族などと一緒に入浴できるのは楽しい。

 

■サイクリングで絶景巡り

なお、式根島は温泉以外にも絶景の宝庫である。島には路線バスも走っていないので、レンタサイクルが便利。1~2時間で島を周回できる。多少のアップダウンはあるが、信号機が1つしかないくらいだから、交通量も少なく快適にサイクリングを楽しめる。

 

島一番の絶景ポイントである神引展望台は、360度の大パノラマ。新島や大島はもちろん、伊豆半島まで見渡せる。

 

展望台からさらに徒歩で20分ほど低木林の小道を歩いていくと、突然視界が開けて岩がむき出しの荒涼とした地形が出現する。「唐人津城」は、かつての噴火口。式根島が温泉に恵まれている理由が垣間見える。

 

これからやってくる海水浴シーズンに、船旅と温泉巡りを計画してみてはいかがだろうか。

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