◆日本の対中投資は4年連続減少
2012年以降、日本企業の対中直接投資の減少は止まらない。中国商務省のデータによれば、実行ベースで日本の対中投資金額が2012年の74億ドルをピークに、13年71億ドル、14年43億ドル、15年32億ドル、16年31億ドルと減少の一途を辿っている。4年連続減少で、16年の投資額は12年の4割強に過ぎない。
過去5年間、中国の名目GDPは48.4兆元(約7.5兆ドル)から74.4兆元(約11.4兆ドル)へと54%増加、国内需要は年平均12%のスピードで拡大している。世界各国も中国の巨大市場に照準し、対中直接投資を増やしている。例えば、米国は2012~16年対中投資が28億ドルから38億ドル(35.7%増)、韓国は30億ドルから47億ドル(56.7%増)、英国は4億ドルから22億ドル(5.5倍増)、ドイツは15億ドルから27億ドル(80%増)など、いずれも大幅な増加を見せている(図1を参照)。
出所)中国商務省統計データにより沈才彬が作成。
主要国が相次いで対中投資を増やしている中、日本だけが激減させている。日本企業は中国の巨大市場に背を向けていると言われても仕方がない。
◆生産コスト上昇でメリット減退
それではなぜ日本企業は中国市場から逃げているか?第一の理由は言うまでもなく日中関係の悪化である。2012年、日本政府の尖閣諸島国有化に反発し、中国では大規模な反日デモが発生し、湖南省平和堂など一部の日系企業は現地の反日暴動によって大きな被害を受けた。2015年から日中関係は若干改善されたが、現状では日本企業がなかなか反日暴動のトラウマから抜け出せないでいる。
第二の理由は日本政府の外交戦略にある。2013年以降、TPP推進、米リバランス戦略への呼応、中国けん制などは日本の外交戦略の基軸に置かれ、民間企業のビジネスもこの戦略に影響される。そのため、日本の対外投資は中国よりTPP加盟国へシフトする動きが鮮明になってきた。
第三の理由は中国生産コストの上昇だ。経済成長に伴う国民所得の増加によって中国の人件費は過去5年間倍増し、ASEAN諸国や南アジア諸国より遥かに高い。中国現地生産のメリットが大きく減退している。
◆中国経済の大変化に追いつかず
さらに日本企業は中国経済の構造的な大変化に追いつかないという、より深層的な理由もある。筆者は年間5、6回で中国現地調査を実施している。現地調査を通じ、中国経済の「5つのシフト」という大変化を痛感している。即ち、(1)成長センターは沿海部から内陸部へシフト、(2)産業構造は製造業からサービス業へシフト、(3)製造業では輸出から内需へシフト、(4)消費分野では店舗消費からネット通販へシフト、(5)支払い手段はキャッシュ決済からスマホ電子決済へシフトなどである。
だが、日本企業の対中投資は内陸部より沿海部に、産業分野ではサービス業より製造業に、製造業では内需より輸出に、消費分野ではネット通販より店舗販売に、支払い手段はスマホ決済よりキャッシュ決済に、それぞれ集中している。中国の構造的な大変化に、日本企業は全く追いついていないのが現状だ。そのため、一部の日本企業は現実逃避の形で中国市場から逃げている。
しかし、日本企業は国内市場だけではもう飯が食えないという厳しい現実に直面する。中国市場を抜きにして日本の経済成長も産業発展も語れない。日本企業は早急に対中戦略を見直し、積極的に中国市場を切り開かなければならない。