menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

経済・株式・資産

第182話 国民の実感を伴わないGDP統計

中国経済の最新動向

 今月15日、中国国家統計局は今年1~6月期のGDP成長率が5%、うち第2四半期が4.7%と発表した。昨年の5.2%より鈍化したものの、日米欧諸国に比べれば、依然と高い成長率を維持している。

 しかし、国民の目線から見れば、この成長率が実感を伴わない統計数字に過ぎない。

 

「生産法」と「支出法」の相違

 中国経済に対する国民の体感温度が低い。5%成長にもかかわらず、就職が難しく、政府や企業及び家庭の収入が減っているからだ。国民の実感は政府のGDP統計と大きくかけ離れている。

 なぜ国民の実感と政府の統計が乖離しているか?1つの原因として、中国と日米欧先進国のGDP統計方法の相違にあると思われる。

 周知の通り、日米欧先進国のGDP統計に使われる方法は支出法という。即ち、生産されたものはどのぐらい消費されているかが、GDP成長率を計算する基礎データとなる。そのため、消費、輸出、投資がGDP統計の三大要素と言われる。

 一方、中国のGDP統計方法は日米欧と違い、生産法を採用している。つまり、どのぐらい生産したかがGDP統計の主な要素となる。従って、中国のGDPを算出する際、消費、輸出と投資のほか、生産も重要な要素に入れる。

 こうすると、一部の無用な生産もGDPに反映される。例えば、在庫である。生産されたものが売れずに在庫になるが、これも統計上ではGDPに反映される。
 
 不動産を実例に説明しよう。今年6月末時点で不動産販売待ち(在庫)面積が7億3,894万㎡。前年同期に比べれば、15.2%増の1億1,232万㎡が増えた。これらの販売待ち不動産物件もGDP成長率に寄与するものだ。今年上半期の販売実績によれば、1平方メートルの不動産価格が約1万元で、単純計算すれば、こうした増えた不動産在庫分は約1.1兆元(約23兆円)に上り、今年上半期GDPの1.8%に相当する。仮にこのような無用なものを除けば、今年上半期のGDP成長率は5%ではなく、3%強に過ぎない。言い換えれば、政府のGDP統計は実に水増し分が多いのだ。

 

名目GDPと実質GDP成長率の乖離

 国民の実感が政府のGDP統計とかけ離れているもう1つの原因は、名目GDPと実質GDP成長率の乖離にある。

 いま、中国経済は日米欧諸国のインフレ状態と反対に、深刻なデフレに陥っている。当局の発表によれば、今年1~6月期の消費者物価指数(CPI)が前年同期に比べ僅か0.1%上昇した。一方、生産者物価指数(PPI)が▼2.1%に下落し、2022年10月より21か月連続でマイナスを記録している(図1を参照)。生産者物価指数の連続下落は、「生産過剰」の実態をある程度反映している。

 


 深刻なデフレ状態によって、名目GDPと実質GDP成長率のかけ離れが生じている。

例えば、政府発表の今年1~6月GDP実質成長率が5%だが、名目GDPで計算すれば4%しかない。昨年も同様に、名目GDP成長率は4.6%、政府発表の実質GDP成長率5.2%より0.6ポイント低い。デフレ時代で国民が実感できるのは、実質成長率ではなく名目成長率だ。

 

国も企業も家計も赤字

3つ目の原因は国、企業、家計のいずれも赤字に陥っているからだ。

 本来ならば、経済が成長し、税収など国の財政収入が増え、企業や国民の所得も増加する筈だ。ところが、現実は国の財政収入が減少しているし、企業所得も個人所得も減っている。

まず国の財政収入を見よう。中国財務省の発表によれば、1~5月国家財政収入が9兆6,912億元で前年同期に比べ▼2.8%と減少し、うち税収が▼5.1%の減少だ。一方、財政支出が3.4%増の10兆8,359億元となり、財政赤字が1兆1,447億元にのぼる。収入が支出に追いつかず、政府に金がないのが実情である。

政府のみならず、企業も家庭も所得が減っている。今年1~5月企業所得税が2兆2,382億元、前年同期比で▼1.7%。個人所得税が▼6%の6,072億元。いずれも減少となっている。

個人所得税の減少は国民所得の減少を意味する。ところが、国家統計局の発表では今年1~6月国民1人当たり可処分所得が前年同期に比べ5.4%増となっている。国民所得が5.4%増加しているのに、個人所得税が▼6%減少している。不思議しか言えない。筆者は国家統計局の統計に信ぴょう性が低いと見ている。

 

激減する外国直接投資

 4つ目の原因は外国直接投資の激減によるマイナス影響だ。

 中国商務省の発表によれば、2023年中国への外国直接投資が実行ベースで前年より8%減少した。外国直接投資額の前年割れは2016年以来の出来事だ。

今年に入ってから、外資の減少が一層加速している。図2に示すように、1月▼11.7%、1~2月▼19.9%、1~3月▼26.1%、1~4月▼27.9%、1~5月▼28.2%、1~6月▼29.1%と、月ごとに減少幅が拡大している。

 外国直接投資は中国経済に対する寄与度が高い。中国側の統計によれば、外資系企業は全国雇用の1割、工業企業利益の3割、研究開発費の4割、輸出入の3割、税収の6分の1を貢献している。外資の撤退や減少は雇用と個人所得の減少に繋がり、国民の生活に直接に影響している。

 


 先日、「三中全会」が開かれ、「改革を全面的に進化させ、中国式現代化を推進することに関する中共中央の決定」を採択して閉幕した。今後、いかに景気低迷や深刻なデフレ状態から脱却し、国民の実感を伴う経済成長を実現するか? 空虚なスローガンではなく、国民に寄り添う形の着実な改革開放策とその実行力が今、中国政府に求められる。(了)

第181話 中国電気自動車(EV)の輸出に異変前のページ

第183話 「脱中入米」~日本製鉄の決断とそのリスク~次のページ

関連セミナー・商品

  1. 沈 才彬(しん さいひん)「爆発する中国経済」CD

    音声・映像

    沈 才彬(しん さいひん)「爆発する中国経済」CD

関連記事

  1. 第138話 サプライチェーンが中国に戻ってきた

  2. 第47話 中国経済はハードランディングするか?

  3. 第64話 動き出した「中国版マーシャルプラン」

最新の経営コラム

  1. 朝礼・会議での「社長の3分間スピーチ」ネタ帳(2024年11月20日号)

  2. 第七十八話 展示会後のフォローで差をつける「工場見学の仕組みづくり」

  3. 第219話 少人数私募債の相続対策

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 税務・会計

    第25回 納税手続きは「e-Tax」と「ダイレクト納付」で効率化
  2. 経済・株式・資産

    第66話 所有不動産に仮差押・差押をされたら…(3)
  3. マネジメント

    危機への対処術(9) フォークランド紛争と鉄の意志(マーガレット・サッチャー)
  4. 社員教育・営業

    第30話 「自創経営における人格能力とは・・・序編」
  5. 社長業

    Vol.168 マレーシア・シンガポール弾丸視察レポート
keyboard_arrow_up