マスク着用の常態化、オンライン会議の普及、リモートワークの増加…コロナ禍でコミュニケーションの形も大きく変化しました。これから社長はどんな点に気をつけて話をすればよいか。またそのトレーニング法について、話し方専門家の新田祥子先生にお伺いしました。
■新田祥子氏(にった しょうこ)/話し方専門家/セルフコンフィデンス代表
あがり症と話し方の専門家として、人間科学、コミュニケーション学に基づいた科学的な理論を背景に、「あがり症の克服」と「論理的な話し方」を指導する、日本で初めての話し方教室「セルフコンフィデンス」を開設。場数や練習だけでは決して克服できない本当のあがり症の克服、簡単に論理的で説得力のある話し方の体得など脳から見た独自の指導法で2千人以上も悩みから解放。
スピーチや商談、交渉、プレゼンをする機会が多い経営者、エグゼクティブ層を中心に定評を博している。 著書「練習15分 論理力トレーニング教室」「練習15分あがらない話し方教室」「心臓がドキドキせず あがらずに話せるようになる本」他多数。
言葉でも「笑顔」は伝えられる
去年から欠かせなくなった、マスク越しのコミュニケーションの注意点を教えてください
マスクは声量を下げ、また早口だと相手に伝わりづらくなります。普段の会話よりも意識して、口を大きく開けてハッキリ声を出して、ゆっくりと話す様にしましょう。
2つめのポイントは、口角を上げて話す、つまり表情筋で笑顔をつくって話すことです。無表情だとそれだけで怒った様な口調になってしまいますが、表情筋を上げるだけで変わります。マスクでも電話腰でも笑顔を作って話すと、言葉で笑顔を伝えて和やかに話を進めやすくなります。
対面は表情もありますが、電話では口調が感情を示します。日頃から言葉が強い人は柔らかい話し方を心がけましょう。特に指示・命令に慣れている役職の方がこれまで通りの伝え方をすると、これまた怒っていると誤解されてしまいます。
その対策は「言葉を放り投げない」「語尾を柔らかくする」。ただの挨拶でさえ「おはよ!」と語尾を強くすると、相手との関係によっては怒っているような口調で届いてしまう。注意が必要です。
オンラインでは「見た目が9割」
オンラインの場でスピーチしたり、言葉を伝える時の注意点を教えてください。
在宅のオンライン会議だと、マスク越しでも分かる程寝ぼけた「腑抜けの顔」な人が多く残念です。家だと脳がリラックスするので思考も顔も「お家モード」。話し方以前の問題ですが、まずビジネスモードに切り替えて形を整えましょう。顔、姿勢、髪型、服装、女性なら化粧、男性ならひげ剃りなど、会社で仕事をする時の準備に近いほど良いです。
姿勢は肩を開くより、腰を伸ばして、胃を垂直に。オンラインでは腰が入った座り方で話しましょう。リラックスした姿勢は相手にだらしなく偉そうな印象を与え、損しかない。話し方専門家の私が言うのは少し変ですが、オンラインでは「見た目が9割」です。
自分の思い通りには、相手に伝わらない
オンライン会議で無理やり笑う必要はありませんが、表情筋は上げてください。口角を少し上げ、表情筋がわずかに上に動く位で良いです。話す時に和やかな雰囲気が出せます。
「寝ぼけた声」にも注意。仕事モードなら交感神経が活性化して筋肉が張り詰めるので声に張りが出ます。逆に家でリラックスしていると、寝ぼけた声になりがちです。
また、自分には自分の声の8割が骨伝導で聞こえていますが、人に伝える時は10割空気を振動させて伝えます。それだけでも声の印象は違うのに、さらにオンラインではデジタルを通して伝えるので、余計に印象は変わります。ハッキリと、ゆっくりと。1分間で40代以上の方はひらがな200~220文字位、30代以下なら250文字位を目安に話しましょう。
話の「間」も意識して取りましょう。お互い言葉が重なると、どちらの声もオンラインでは聞き取りにくくなります。相手の話が終わってから一呼吸あけて話す位が丁度良いです。
話の内容・中身は要点をしっかり伝えることに徹する。要点を伝えたら、あとは質問を促しましょう。その方が本来の相手のニーズや疑問を引き出せ、コミュニケーションも取りやすい。
見た目も声も話の内容も、思い通りには相手に伝わらないことを知ると、より相手に伝わる話ができるようになります。
「いきなり本題」でも伝わる話し方とは?
オンラインだと雑談なしで本題に入ったり、場の空気を読みづらかったりしますが、その様な状態でも相手に伝わる話の組み立て方のコツはありますか?
まず「要点」を押さえた話の組み立て方を練習しましょう。「課題」「結論」「理由」の3つが話の骨格。これを端的に説明できるようにします。自分の話に自問自答を繰り返すのが効果的です。自分の中で話がよりクリアになり、余分な箇所も削ぎ落とせます。もっと簡単な練習法は、結論と理由を話した後に「例えば?」と言ってみることです。すると具体例を脳が勝手に探し出すので、結果的に話の精度も高まります。
もう一つは「数字でまとめる」方法。「今日お伝えしたいことはこれとこれとこれと…」でなく、「今日お伝えしたいことは3つあります」「この取組についてのポイントは3つです」と宣言するだけで聞き手の集中力が続き、内容も理解されやすくなる。「でも忘れてて2つで終わったら指摘してね」と言えば、ツカミにもなります。また、何かを1つ伝えるスピーチの長さは1分が理想。まずは要点を押さえた「1分スピーチ」を練習しましょう。慣れてきても3分までにとどめてください。
家で簡単にできるトレーニング法
外出が減ると、年齢に関わらず顔がたるみ締まりのない顔になります。神経が散漫になっている証拠で、認知症の初期にも似ています。以前の自分の表情と見比べてみてください。その点を解消して発声にも役立つのが、「リーダーの話し方DVDでもお伝えしている「アゴを柔らかくするトレーニング」「舌を柔らかくするトレーニング」。1日1セットでもOKです。ソファーも、腰を伸ばして座る。足を伸ばして足首の屈伸をする。立ってかかとを上げ下げする「かかと落とし」をする。脳は全身に神経を走らせています。全身のこういった軽い運動が、顔の表情にも、発声の向上にも、ボケ防止にもつながります。
自宅でできる声のトレーニング方法2選
アゴを柔らかくするトレーニング
アゴの付け根のマッサージをする
上アゴと下アゴの付け根の筋肉の、押して痛い箇所を見つけ、円を描きながら強めに30回マッサージをする。
《自己チェック項目》
「ア、ウ、ア、ウ…」と繰り返し発音したり、「お綾や親にお謝り(おあややおやにおあやまり)」の早口言葉を、口唇を中央に寄せずにゆっくり2、3回繰り返してきれいに発音できたら、アゴが柔らかくなったと考えてよい
舌を柔らかくするトレーニング
- 舌を上側に裏返し、上アゴに添わせながら舌をノドの方に引っ張る
- 唇を横に伸ばしたまま、舌を使ってタ行、ナ行、ラ行を発音する
《自己チェック項目》
「おきにいり」「タ行」「ナ行」「ラ行」を発音して、舌の動きが変わることを確認する
(このインタビュー記事は、日本経営合理化協会オーディオ・ヴィジュアル局の経営教材をご愛顧いただいている方向けにお送りしている「ビジネス見聞録」に掲載したものです)