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第139話 歴史の経験 危機は中国台頭加速の好機 ~コロナ危機後の中国経済を読む~

中国経済の最新動向

 コロナ危機後の中国経済をどう読むか?未来を見極めるには歴史に学ぶ必要がある。これまで危機は中国の台頭に絶好のチャンスをもたらすことが、歴史に証明されている。今回のコロナ危機も例外ではない。

 

アジア通貨危機 中国GDPがASEAN+韓国を逆転

 まず、アジア通貨危機の実例を見よう。危機発生前の1996年、ASEAN5のGDPはインドネシア2235億ドル、タイ1822億ドル、マレーシア987億ドル、シンガポール947億ドル、フィリピン835億ドル、合計6826億ドル。韓国4619億ドルを加えると1兆1445億ドルとなり、中国GDP(8575億ドル)の1.3倍強に相当する。

 

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出所)国際通貨基金(IMF)データにより筆者作成。

 

 ところが、1997年アジア通貨危機が発生すると、東アジアの経済地図は一変する。

 

 1998年にASEAN全体の経済成長率はマイナス8%にまで落ち込む。そのうち、インドネシア▼13.1%、タイ▼10.5%、マレーシア▼7.5%などマイナス幅が大きく、韓国も▼6.7%に落ち込んだ(図1を参照)。

 

 しかし、当時の中国朱鎔基首相は迅速かつ有効な危機対策を打ち出し、人民元切り下げをせずに通貨危機を食い止めることができた。1998年、中国経済は若干減速したものの、7.8%という高い成長率をキープした。

 

 アジア通貨危機は中国にASEN+韓国を逆転するチャンスをもたらした。2000年、ASEANはベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマーなどの加盟によって、10ヵ国に拡大した。にもかかわらず、経済規模は5686億ドルにとどまり、危機前の1996年より14%も減少した。韓国も通貨危機の影響で1%減少の4572億ドルとなり、両者合わせても1兆258億ドルに過ぎない。

 

 対照的に、2000年の中国GDP規模は1996年に比べ一気に40%拡大の1兆1985億ドルとなり、ASEAN+韓国の1.17倍に相当する。見事に逆転が果たされた。

 

◆世界金融危機 日中逆転をもたらす

 2つ目の実例は2008年の世界金融危機だ。リーマンショックを発端とする金融危機は世界経済を直撃し、日米欧諸国がいずれもマイナス成長に落ち込んだ。

 

 国際通貨基金(IMF)によれば、金融危機直後の2009年に、アメリカは▼2.6%、ユーロ圏▼4.1%、英国▼4.9%、日本▼5.2%、ロシア▼7.9%など、軒並に大幅なマイナス成長に転落した(図2を参照)。

 

chin1392.png

出所)国際通貨基金(IMF)データにより筆者作成。

 

 しかし、中国政府は素早く4兆元規模の大型景気対策を打ち出し、金融危機の影響を最小限に抑えることに成功した。2009年中国のGDP成長率は9.1%を保持し、世界経済への寄与度も3割を超える。翌年、中国の経済規模は日本を逆転し、世界2位の経済大国に躍進した。リーマンショックは実に日中逆転の助産師だった。

 

コロナ危機 米中逆転を早める

 今回のコロナ危機も同様のパターンを示し、中国経済は「一人勝ち」の状態となっている。

 

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出所)国際通貨基金(IMF)2020年10月「世界経済の見通し」報告書により筆者

作成。中国の数字は実績。

 

 図3はIMFが昨年10月に発表した2020年世界経済の見通しだ。この見通しによれば、世界全体は前年比で▼4.4%、先進国▼5.8%と大幅なマイナスに陥る。

 

 そのうち、アメリカ▼4.3%、ドイツ▼6%、フランス▼9.8%、イタリア▼10.6%、スペイン▼12.8%、英国▼9.8%、日本▼5.3%と、いずれもGDP縮小幅が大きい。

 

 新興・途上国も▼3.3%成長に転落。そのうち、ASEAN▼3.4%、インド▼10.3%、ロシア▼4.1%、ブラジル▼5.8%となっている。

 

 しかし、中国はコロナ鎮圧にいち早く成功したため、主要国のなかで唯一のプラス成長国となっている。IMFは中国成長率を1.9%と予測しているが、実績は前年比で2.3%増となった。正に「1人勝ち」だ。

 

 中国国家統計局が発表した速報値によれば、2020年国内総生産(GDP)は101兆6000億元(約1628兆円)と初めて100兆元の大台を突破した。昨年末時点の人民元為替レート(1ドル=6.5249元)で米ドルに換算すれば、15.5兆ドルにのぼる。

 

 2019年米国のGDPは21.48兆ドルだったが、IMF予測の2020年▼4.3%で計算すれば、昨年は20.6兆ドルまでに減少する筈だ。米国のGDPを100とすれば、中国が75となる。19年時点では、まだ68だったが、昨年は一気に7ポイントの差が縮小し、この差は今年に更に縮まるだろう。

 

 結局、コロナ危機は中国の台頭を加速させる結果をもたらし、米中逆転を繰り上げる可能性も出てきた。従来の予測では、2033年前後に中国GDPが米国を上回ると予測されていたが、英国シンクタンク「経済ビジネスリサーチ・センター(CEBR)」は、2020年12月下旬に発表したレポートの中に、次のように新しい予測結果を示している。

 

「中国は当初の予測より5年も速い2028年までに米国を追い抜いて世界最大の経済大国になる」。

 

 2018年3月、中国は憲法改正を行い、国家主席の任期制限を撤廃した。これによって、現職の習近平主席が2028年までにこのポストにとどまることはほぼ確実となっている。そうすれば、習主席の任期内で、米中逆転が現実味を帯びてくる。既存の覇権国米国にとって、急速に台頭する中国が許さない脅威となり、米中間の覇権争奪も益々熾烈さを増す展開となるだろう。

 

なぜ中国経済は危機に強いか?

 それではなぜ中国経済は危機に強いのか?周知の通り、中国は共産党一党支配の国だ。民主主義のコストを払わずに、トップダウン方式で意思決定が速く、決断も行動も速い。全国の資源を総動員して危機に立ち向かい、その影響を最小限に抑え、素早く経済の回復が実現できる。これは正に共産党一党支配の強みである。この強みは、1997年アジア通貨危機や2008年世界金融危機、及び今回のコロナ危機に裏付けられている。

 

 ただ、強みはしばしば弱みと表裏一体だ。中国経済の弱みも共産党一党支配にあり、政変に弱い特徴を持つ。筆者の調べで、過去60年間、中国経済は3回も挫折を経験した。いずれも経済問題ではなく、政変によるものだった。

 

 1回目は文化大革命中の1967年。その年、国家主席の劉少奇氏が打倒され、中国全土は大混乱に陥る。その年の経済成長率▼7.2%、翌年の68年も▼6.8%と、2年連続のマイナス成長を記録した。2回目は1976年。毛沢東主席が亡くなり、彼の側近である「四人組」が逮捕され、クーデタが発生した。その年の成長率はマイナス2.7%だった。3回目は1989年の天安門事件で趙紫陽総書記が失脚し、経済成長率は前年の11.3%から一気に7ポイント減の4.1%に急落した。翌年の90年も3.8%にとどまる。言い換えれば、中国経済の最大リスクは政治リスクであり、特に政変リスクだ。

 

 では、なぜ中国経済は政変に弱いのか?前述したように、中国は共産党一党支配の国である。党中央主要幹部が失脚すると、大規模な幹部異動が行われ、政治は混乱に陥り経済も挫折する。これも歴史に証明されたものだ。

 

 現在、コロナ鎮圧の成功及び急速な経済回復の実現によって、習近平政権の支持率が高い。欧米調査機関によれば、習政権の支持率が90%超と発表している。

 

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 出所)「日本経済新聞」2021年1月13日朝刊記事により。

 

 図4のように日本経済新聞、中国環球時報、韓国毎日新聞が12月7~22日に共同で実施した「日米韓経営者アンケート」も同様な調査結果を示している。共同調査の対象は日中韓国それぞれ100社となる。アンケートによれば、「政府のコロナ対応をどう評価するか」という質問に対し、中国は「非常に良い」と答える企業経営者が76%、「良い」と答えるのも20%にのぼる。合計で96%が政府の対策に満足している。

 

 一方、政府の対応が「良い」と答える日韓の企業経営者はそれぞれ26.4%にとどまり、「悪い」と答える経営者は韓国26.4%、日本12.5%となっている。明暗を分けた調査結果だ。

 

 当面、支持基盤が強化された習近平政権の下で、政変が起きるとはなかなか考え難い。政変が起きない限り、成長挫折のシナリオもないと見ていい。

 

 結論として、コロナ危機によって、中国の台頭は加速し、米中逆転も繰り上げて実現する可能性が高い、という見方は妥当だと思う。(了)

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