材料費の高騰は利益を増やし、税負担を重くすると書くと、理解できないかもしれません。現在のように材料費が高騰していくと、儲かっていないのに、キャッシュとは無関係な実体のない利益が増加し、しかも経営者がそれに気づくのは、よくて決算日後ということになります。
じっさいのところそのことに気づく経営者は優秀なほうで、多くの経営者はそれさえわからず、実感とは大幅に解離した利益に、理由もわからず「どうしてだろう?」と思う程度です。
この実感できない利益の増加を促すものが最終仕入原価法(注1)というものです。
下記の損益計算書をご覧いただけるとわかるように、損益計算書の最初に表示される利益が売上総利益(租利益)で、売上から原価を引いて出てきた数字です。
売上原価とは、製造業でいえば、その売上を生むために使われた材料費、製造部門の人件費、製造のための外注費・経費などで、税務上損金で落とせますが、逆に、売上を生むためには使われなかった材料は在庫となり資産計上されます。
この資産計上は最終的に利益となります。
では、なぜ材料費が高騰すると棚卸金額が増加し、利益が増え、税負担が増えるのか?
ひとつの例で示してみます。
今まで1個1万円で仕入れていた材料が、299個在庫であったが、最後に1個2万円で仕入れたと仮定すると、合計300個のその材料棚卸金額は300個x2万円で、600万円になります。仮に最後の1個を今まで通り1万円で仕入れていればその材料棚卸金額は300万円なのです。
これでおわかりいただけるように、最後に1個2倍の単価で仕入れたために、その材料に係る材料棚卸金額は300万円も増えてしまうのです。
そして、その棚卸金額は利益の大幅な増加につながり、思わぬ税負担の増加につながっていきます。
(注1)最終仕入原価法
最後に仕入れた1単位あたりの取得単価で、期末の棚卸資産を評価する方法で、税法上で最終仕入原価法の適用が認められているため、中小企業の多くで採用されています。なお、上場企業は別です。