2011年7月24日、ついに、テレビ放送の主役である地上波放送は、アナログ方式からデジタル方式(地上デジタル放送)に完全移行します。地域などによって例外はありますが、原則として、アナログ放送は停波されるので、アナログ放送の受信のみに対応したテレビやレコーダーでは映像を見たり録画したりできなくなります。
放送システムの刷新は、ビジネスにも大きなインパクトをもたらします。今回は、地デジ化後に、さらに変化するであろう市場を読み解きます。
■テレビの売上げがダウンする
ここ1~2年、地デジ化に向けた買い換え需要や、エコポイント制度の後押しもあり、デジタル放送に対応した薄型テレビが爆発的に売れました。メーカーは価格下落に悩まされつつも出荷台数を伸ばし、家電販売店は潤うなど、結果、多大な経済効果が生まれました。
一方、7月24日以降の市場はどのようになるでしょうか?
社団法人デジタル放送推進協会による「地上デジタルテレビ放送に関する浸透度調査」では、地デジ対応機器の世帯普及率を95%としていますが、調査対象から80歳以上の高齢者が外されている事や、2台目、3台目のテレビを踏まえると、実質的な普及率はもう少し低いと考えられます。
よって、7月24日以降も「対応忘れ」に気が付いた消費者による、地デジ対応テレビや機器の需要が見込まれます。しかし、それは半年から1年程度の現象に止まり、需要が満たされると、地デジ対応テレビや機器の売上げは、徐々にダウンするでしょう。
■家電量販店、次の一手 「ホームシアター」
地デジ需要で、薄型テレビやレコーダーを売りに売った販売店は、地デジ化後の販売縮小は避けられないと見込んでいるようです。そこで注目を浴びそうなのがホームシアターです。既に大量販売した高画質で大画面のテレビやレコーダーに、ホームシアター用のオーディオ機器を追加して貰うのは良いアイデアです。テレビやレコーダーの販売で手に入れた顧客情報も活きるでしょう。過去、カメラ販売店は、カメラ本体に加え、レンズなどの周辺機器で、継続的な売上げを確保してきました。カメラ販売を発端とする家電量販店は、そのノウハウを存分に発揮する事でしょう。
■物販からサービスの提供へ
ここ1~2年のテレビ販売を観察すると、競争軸は「低価格」が大部分を占めていました。インターネット販売によって、消費者が簡単に販売価格比較でき、また、遠くの店から購入するのも当たり前になりました。
しかし、今後は少し状況が異なるでしょう。地デジ化への対応が遅れている高齢者がテレビを購入したり、ホームシアターオーディオのように、組み合わせ、設置、接続、設定が必要なシステムについては、多くの消費者がサポートを必要とします。つまり、近所の「相談できる版売店」が重要度を増すのです。
量販店においては、消費者の要望に沿った商品の提案ができる体制作りが鍵となるでしょう。家電配送業においては、配達だけでなく、設置、接続、設定ができるスキルが付加価値となるはずです。小規模な電器店においても同様ですが、さらに、購入後の消費者の「困った」にフットワーク良く対応できれば、量販店との価格差を超えて選ばれる存在となるでしょう。収益の柱を、物販からサービス提供へと転換する時期がやって来るのです。
デジタル化とネットワーク化が進むホームシアターは、ホームオートメーションやスマートハウスと通じる部分もあり、電器業界のみならず、住宅、リフォーム、インテリア業界への影響も少なくないでしょう。
■勉強の機会と資格制度
物販からサービス提供へとステップアップするにはどうすれば良いのでしょうか?量販店の場合は従業員の教育、個人店の場合は自らの勉強が肝要です。ホームシアターには、設置、接続、設定が不可欠で、異なるメーカー製品の組み合わせにも柔軟に対応できる応用力が必要です。さらに、インターネット、LAN、スマートフォン連携など、日々進化する接続方法や新機能にも追随できるよう、日々の情報収集も大変重要です。
情報収集に際しては、日々更新され、原則無料のインターネットメディアを活用しましょう。また、基礎から体系的に学ぶには、関連資格の取得を目指して勉強するのも一案です。
◎おすすめのインターネットメディア(ホームシアター関連):
1. Phileweb(ファイルウェブ): http://www.phileweb.com/
オーディオ・ビジュアル機器やホームシアター関連の専門誌を発行する音元出版のサイト。新製品やサービスの速報、製品レビューなど、幅広い情報が得られる。
2. インプレス AV Watch: http://av.watch.impress.co.jp/
オーディオ・ビジュアル製品やサービスのニュースが豊富なサイト。ライターの個性的な視点による記事も面白く読めます。
◎おすすめの資格
1. デジタルホームシアター取り扱い技術者(http://www.jas-audio.or.jp/dht/)
一般社団法人日本オーディオ協会が運営する資格制度。3つのレベルから成り、電器店の販売員やインテリアコーディネーター(基礎知識や応用力の取得)からホームシアター施工専門店(音響や映像の調整および設計、施工、管理技術の習得)までを対象としています。講座に参加して筆記テストに合格すると資格が得られます。
2. 家電製品エンジニア・アドバイザー資格(http://www.aeha.or.jp/nintei/main.html)
財団法人家電製品協会が運営する資格制度です。デジタル化、ネットワーク化する家電のソリューション技術(課題解決能力)、商品知識、顧客満足、安全や省エネに関するアドバイスを身につける事を目的としている。家電製品エンジニアと家電製品アドバイザーの2種類の資格があり、さらにそれぞれの資格は「AV情報家電」と「生活家電」の2種類に分かれ、レベルや希望に応じて受験できます。ペーパーテストのみですが、市販の参考書なども発売されていて、体系的に勉強が可能です。