小売店やサービス業など、どのような業態であっても店舗に「音楽」は欠かせませんね。購買意欲を刺激して売上げを伸ばしたい、お客様の回転を速くしたい、或いは、リラックスできる時間を提供したいなど、業態や経営方針によって、音や音楽に求める効果は異なるでしょう。その点、有線放送に加え、最近では、インターネットを利用した演奏権付きのリーズナブルな配信サービスも登場し、豊富なチャンネルからイメージに合ったものを選べるなど、利便性は向上しています。
一方で、「音楽」の効果を引き出すには、音質面での配慮も必要です。店舗など、広い空間で特に注意したいのは低音。今回は、店舗で音楽の効果を引き出す低音の基本とその実現アイデア、さらに、求める効果に適した音楽についてご紹介します。
■ 体に響く「低音」
電車や車に乗っている時に眠気を催すのは、振動やそのリズムが関係しているとされています。音は耳で聞きますが、低い周波数の音は振動として体にも伝わり、良くも悪くも人体に大きな影響を与えると指摘されています。
研究は途上の段階にありますが、音楽の要素を伝えるには、耳で聞き取りやすい中域から高域の音と同様に、体に響く低音も重要と言えます。
■ いろいろな低音
低音といってもいろいろな種類があります。ヒップホップやラップ音楽のようにドカドカと迫力のあるリズムで、気分を高揚させるタイプの低音あれば、ゆったりと空気を揺るがし、空気感や臨場感の表現とリラックスを促すタイプの低音もあり、クラシック音楽や映画では非常に重要な役割を果たします。低音は必ずしも大音量でうるさいものではありません。
■ 欠落しがちな低音
仕事柄、買い物などで訪問した店舗でも音響が気になりますが、大抵の場合、低音が欠落しています。原因は、天井に埋め込んだ小型スピーカーやミニコンポの利用など、設備自体が低音再生に向いていない事に加え、空間が広く低域音が拡散して薄まっている事が考えられます。そもそも、人間の聴覚は、低い音ほど感度が低く、特に小音量ではその傾向が増します。
■低音を補強する
低音は、サブウーファーと呼ばれる低音専用のスピーカーで増強が可能です。重低音が必要なホームシアターでは一般的に用いられていて、それ程特別な装置ではありません。店舗では、アメリカの大手ファストファッション店が天井に複数のサブウーファーを設置し、リズムが明確でテンポの速い曲を流していました。決して音量は大きくありませんが、体に響く低音のリズムで、確かに気分が高揚します。
■サブウーファーと設置
サブウーファーは、大口径のスピーカーに加え、大出力のアンプと電源まで内蔵しているのが特徴です。最近では、デジタルアンプを内蔵し、大きな音量でも低消費電力を実現している製品もあります。サブウーファー大小様々な製品があり、空間の大きさに合わせて出力の高いモデルを選んだり、さらに複数個利用する事も可能です。音声信号は、サブウーファー出力端子を備えたオーディオ機器から、低音成分のみをオーディオケーブルで伝送するのが一般的です。
デジタルアンプ内蔵のサブウーファー。ミニコンポやAVアンプのサブウーファー端子と接続して使用します。サブウーファー端子の無いミニコンポとも接続が可能です。出力端子を備えているので、必要に応じ、数珠つなぎの要領で何個でも増設する事が出来ます。
■小スペースならセット製品が手軽
50㎡程度以下の小規模なスペースで、新規に機器を購入するなら、一般家庭用のホームシアターセットを利用するのも良いでしょう。
アンプ、スピーカー2個、サブウーファーがセットになった製品。有線放送の端末やCDプレーヤーを接続すれば、サブウーファー付きのオーディオとして利用できます。
■大空間なら、AVアンプを中心に組み合わせを
50㎡程度以上の空間なら、ホームシアター用のAVアンプと、大出力のサブウーファーを複数用いると良いでしょう。AVアンプは、製品によりますが、7個~11個のスピーカーを同時に鳴らす事ができ、サブウーファー出力も搭載しているので、広いスペースにも対応できます。
アンプのみ。スピーカーは7個接続可能。サブウーファー別売り。
最大7個のスピーカーを接続可能です。サブウーファー用の出力端子も備えています。
■ 業者に依頼する
小規模な店舗や個人店舗など、機器や配線を自前で用意する場合で、自身でよく分からないという時は、業者に依頼が可能です。「ホームシアターインストーラー」という業態の業者に任せれば、スペースや希望に応じたプランニング、機器選択、施工や調整行ってくれます。
■ 求める効果に応じた音楽の例
音楽と行動については研究途上で明確な結論はありませんが、経験上、リズムが明確でテンポの速い音楽は気分を高揚させると考えられています。古来より、行進曲は兵士を鼓舞してきましたし、パチンコ店では軍艦マーチが定番だった時代もあります。つい最近立ち寄った大手スーパーマーケットでは、タイムセールに合わせて、デラツキー行進曲が流れていました。
飲食店では、ランチタイムにお客さんの回転数を上げたい時、テンポの速い曲が適しているとされ、10%以上も売上げが伸びたという実験結果もあります。同じ飲食店でも、ディーナータイムでは、リラックスできる音楽を流すと、滞在時間が伸びて、酒類やデザートの売上げも伸びる傾向があり、客単価アップに繋がるそうです。冒頭で申し上げた通り、音楽と行動については研究途上で明確な結論はありませんが、数世紀にも渡って受け継がれるクラシック名曲には、生理的に好まれる要素が多分に含まれると考えられます。クラシック音楽や自然の音を中心に選ぶと良いでしょう。