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- 中小企業の新たな法律リスク
- 第17回 『社長の突然死に備えるには?!』
創業社長も70歳半ば。経営者仲間が突然亡くなったことを契機に、自分が死んだら当社はどうなるのか。どうしたらいいのかを考えました。
本日は賛多弁護士が家族旅行で長期休暇中のため、後輩の志賀弁護士が太田社長とお話することになりました。
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太田社長:経営者懇談会の仲間が突然亡くなってね。私より年下だったのですが‥‥。この歳になると、「突然」とも言えないのかもしれないですが‥‥。自分が死ぬなんて考えたこともなかったので、何も準備していません。ただ、私個人としてはまだしも、従業員や家族に対してはなはだ無責任ではないかと思うようになりまして。
志賀弁護士:社長の健康診断の結果は知りませんが、人間ですからいつどうなるとも知れませんね。死ななくても認知症になることもあります。認知症の社長が経営する会社じゃしゃれにもなりませんからね。
太田社長:失礼なことを堂々と言いますね。志賀先生はそこがいいところでもあるのですが。ところで、とりあえず何に手を付けたらいいですか?
志賀弁護士:死ぬ時の備えとして一般的なのは、遺言を書くことですね。書いていますか?
太田社長:いいえ。何をどう書けばいいのかわかりませんし、正直、めんどうくさいです。信託銀行が営業によく来るけども結構費用もかかるみたいですから‥‥。
志賀弁護士: とりあえず、自筆で書いておけば、費用もかからないし最低限のことであれば、そう面倒なこともありません。
太田社長:例えばどんな遺言にすればいいのでしょうか。
志賀弁護士:「当社の株式は全て長男に相続させる」という内容で、日付、署名を全て自筆して、印鑑を押しておけば、これだけでも会社経営の継続性に関しては、効果があります。
太田社長:そんな単純なものでいいのですか?それで他の家族ともめたりしないのですか。遺留分というのも聞きますが‥‥。
志賀弁護士: もめる可能性はあります。ですから、決してその単純な遺言で全てが解決するということにはなりません。ただ、ないよりかはあった方がずっといいということです。
太田社長:でもまだ長男にゆずると最終的に決めたわけでもないですが‥‥。
志賀弁護士:とりあえず明日社長が死んだときの準備兼遺言を書く練習と割り切ってみてはいかがですか。費用ゼロで作れるわけですから、これを作って仏壇にでもしまっておく、その後また気が変わったら、書き直して、前の遺言を棄てればいいのです。遺言は人生最後の重要な意思表示ですから、書いてからその後気持ちも変わることもあります。だから、書く練習も必要かと思います。
太田社長:じゃあ、書いてみます。
志賀弁護士: そのあと本格的な事業承継プランを練ってみてはいかがでしょうか。前提として、御社の株式がどこにあるのか、名義だけ借りた株式があればそれを含めて整理しておいたほうがいいでしょうね。株式の所在を本当にわかっているのは、創業社長だけ、というケースは多いです。
太田社長:株主名簿もちゃんとしておかないといけませんね。本当のところ株券も発行していませんし。
志賀弁護士:相続準備として遺産のありかを整理するように、会社オーナーなら会社株式の所在を整理しておくことが重要です。
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「備えあれば憂いなし」
最低限の備えをしてから、本格的な事業承継プランをゆっくり考える、というのをおすすめしています。
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 奈良正哉