高橋社長は、埼玉県でスーパーマーケットを事業とするA社を経営しています。同スーパーマーケットでは、多くのパート・アルバイトなどが働いています。
この度、高橋社長は、同業の社長から、近々、労働契約を締結する際の労働条件明示のルールが変わるらしいという話を聞き、心配になったので、賛多弁護士の法律事務所に相談に行きました。
高橋社長:賛多先生、いつもお世話になっています。最近、同業の社長仲間から、近々、労働契約を締結する際の労働条件明示のルールが変わるという話を聞いたのですが、本当ですか。
賛多弁護士:本当です。御社のようにパートやアルバイトなど、数多くの有期契約労働者を雇用している会社では、確実に法改正に対応する必要があります。
高橋社長:具体的にはどのように変わるのでしょうか。
賛多弁護士:使用者は、労働者と労働契約を締結する際に、賃金や労働時間などの労働条件を明示する必要があります。この度、労規則などの改正に伴い、2024年4月1日から、新たに明示すべき事項が追加されます。
高橋社長:具体的にはどのような事項が追加されるのですか。
賛多弁護士:まず、2024年4月1日以降に労働契約を締結・契約更新をする有期契約労働者を含むすべての労働者に対して、「雇い入れ直後」の就業場所・業務の内容に加えて、これらの「変更の範囲」の書面による明示が必要になります(改正労規則5条1項1号の3)。
高橋社長:そうなんですね。当社は、パートやアルバイトなどの有期雇用労働者が多いので、契約更新の際には注意しなければなりませんね。
賛多弁護士:それから、パートやアルバイトなどの有期契約労働者に対する明示事項として、2024年4月1日以降は、有期労働契約の締結及び契約更新のタイミングごとに、更新上限(有期労働契約の通算契約期間又は更新回数の上限)の有無とその内容の明示が必要になります(改正労規則5条1項1の2)。
また、このような更新上限を新設する、又は短縮しようとする場合は、あらかじめその前のタイミングで、新設・短縮する理由を労働者に説明することが必要になります(改正雇止めに関する基準1条)。
高橋社長:当社では、ちょうど、パートやアルバイトの有期労働契約の更新回数を新たに定めようと思っていました。それも契約更新の際に明示しなければならないのですね。
賛多弁護士:さらに、有期労働契約者の無期転換ルールの関係でも、明示事項が追加されました。無期転換ルールとは、同一の使用者(企業)との間で、有期労働契約が5年を超えて更新された場合、有期労働契約者からの申込みにより、無期労働契約に転換されるルールのことをいいます。2024年4月1日以降に、労働者に「無期転換申込権」が発生する契約更新のタイミングごとに、該当する有期労働契約の契約期間の初日から満了する日までの間、無期転換を申し込むことのできる旨(無期転換申込機会)、及び、無期転換後の労働条件を書面により明示することが必要になります(労規則5条5項、6項)。
また、「無期転換申込権」が発生する契約更新のタイミングごとに、無期転換後の賃金等の労働条件を決定するに当たって、他の通常の労働者(正社員等のいわゆる正規型の労働者及び無期雇用フルタイム労働者)とのバランスを考慮した事項(業務の内容、責任の程度、異動の有無・範囲など)について、有期契約労働者に説明するよう努めなければなりません(改正雇止めに関する基準5条)。
高橋社長:思っていた以上に、明示すべき事項が増えるのですね。賛多先生、どうもありがとうございました。
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労働条件の明示は、労働基準法15条に定めれている使用者の義務であり、それに違反した使用者は、30万円以下の罰金が科される可能性があります(労働基準法120条1号)。
特に、パート・アルバイトなどの有期契約労働者を多く雇用する企業などでは、2024年4月以降の労働条件明示のルールをしっかりと把握し、遵守する必要があります。
厚生労働省のウェブサイトには、このルールの詳細が記載され、「モデル労働条件通知書」も公表されているので、参考にしてください。
2024年4月から労働条件明示のルールが変わります ー 厚生労働省|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 橋本浩史