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万物流転する世を生き抜く(39) 三国志の教訓・泣いて馬謖を斬る

指導者たる者かくあるべし

 諸葛孔明から全幅の信頼を受けて蜀軍の北伐の先発隊を任された馬謖(ばしょく)は、街亭(がいてい)という要衝で魏の大軍と遭遇する。
 
 若いなりに兵法理論には通じていた馬謖は、あたりを見渡して、ひときわ高みの山上に陣取ることを決断する。
 
 副将の王平(おうへい)が諌めた。「敵は多勢。籠城戦となれば、山上では水にこと欠きます」。
 
 「お前は兵法を知らんな」と馬謖。「『孫子』にもいう。高みに布陣するのが有利じゃ」。警告を無視して押し切ってしまう。
 
 魏軍は多勢による戦いの鉄則通り、四方をぐるりと囲む。高所からの決戦を挑もうとする馬謖の挑発にも乗らず、気長に構えた。
 
 水を汲みに沢筋に蜀の兵士たちが下ると待ち構える魏軍に斬り殺された。早期結着を焦る馬謖が麓に向けて突撃したが、敵に包囲され軍は壊滅する。王平の危惧の通りとなった。
 
 街亭の敗戦を聞いて孔明は撤退を決断する。漢中に戻り孔明は生き延びた馬謖を詰問する。
 
 「なぜ山上に陣を構えた。敗軍の責任はすべてお前にある」。孔明は馬謖を斬罪に処した。
 
 馬謖は死に臨んで、「この際は私情をはさまず決然と処断なさいませ」と促したという。
 
 処刑に際し全軍が泣いた。孔明も泣いた。「泣いて馬謖を斬る」の故事である。
 
 孔明が馬謖を斬ったのは、このまま司令官の責任を問わなければ、全軍に示しがつかない、との判断だったろう。孔明は丞相として規律を何よりも優先した。軍を任されてからも軍規第一であった。そう言い続けてきた。引き下がれないとの思いだろう。
 
 この孔明の決断は、「情をこらえて軍規を優先した勇断」とされるが、後世の史家の間でも異論がある。
 
 「規律の名のもとに、あたら人材を無駄にする孔明が天下を取るとは望むべくもない」との批判だ。結果責任は、馬謖を重職に任命した孔明にこそあるのではないか、と。
 
 関羽、張飛という名将なきあと、蜀は人材が枯渇していた。
 
 漢中に駆けつけた重臣・蒋琬(しょうえん)は、馬謖断罪を聞いて訴えた。「天下動乱のさ中に智謀の士を殺すとは、あまりに惜しいのではありませんか」
 
 この後、孔明は四度、北伐を敢行するがいずれも魏軍に撃退され、五丈原(ごじょうげん)の陣中に死ぬ。
 
 あなたが孔明なら、馬謖を斬ったか、生かしたか。さていかがか。 (この項、次回に続く)
 
 ※参考文献
 
『三国志』陳寿撰 裴松之註 中華書局
『三国志 きらめく群像』高島俊男著 ちくま文庫
『<実説>諸葛孔明 ある天才軍師の生涯』守屋洋著 PHP文庫
『十八史略』竹内弘行著 講談社学術文庫
 
 
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  著者/宇惠一郎 ueichi@nifty.com 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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