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挑戦の決断(9)作戦目的の不徹底(ミッドウエー海戦時の日本軍)

指導者たる者かくあるべし

 山本五十六の狙い
 1942年(昭和17年)6月5日、日本海軍の第一機動部隊はミッドウエー島沖の海戦で米海軍の太平洋艦隊に敗れ、空母4隻を失った。ハワイ真珠湾奇襲作戦の成功から半年、日本は太平洋での戦いの主導権をアメリカに奪われ、敗戦の道を突き進むことになる。太平洋戦争の分水嶺となる敗北だった。
 
 数的には圧倒的に有利だった戦いで世界に誇る日本海軍はなぜ敗れたのか。戦いにおける部隊の意思統一の重要さを教訓として学ぶことができる。
 
 連合艦隊司令長官として指揮をとった大将山本五十六は、ミッドウエー作戦に明確な戦略的狙いを持っていた。そもそも彼我の国力の差を認識していた山本は、長期戦を避け、早期に米太平洋艦隊を壊滅に追い込んで、米国民の士気を粗相させ有利な状況で講和に持ち込むことを考えていた。
 
 そのためには、真珠湾奇襲で撃ち漏らした米海軍の空母部隊を叩くことが必要だった。米海軍は大西洋と太平洋の両正面に海軍を割かれ、日本との主戦場である太平洋に十分な戦力を配備できないでいたが、それでも空母を発進した航空機が東京爆撃を開始していた。「今のうちに叩かなければ、いずれ米太平洋艦隊は増強される」という危機感もある。
 
 そうした情況下で、日本陸海軍はミッドウエー作戦を立案した。ハワイと日本本土の中間に位置するミッドウエー島の飛行場を占拠し中部太平洋に睨みを効かすというのが陸軍の狙いだが、山本は違った。島を攻撃することで米機動部隊の空母を誘い出して優勢な機動力で叩くことに狙いを定めていた。
 
 南雲忠一中将の判断
 「赤城」など空母4隻を率いて攻撃を担当する第一機動部隊司令長官の南雲忠一中将は後方の旗艦「大和」で指揮をとる山本の意思を共有していたが、重大な認識のずれがあった。
 
 「島の奇襲攻略は容易い。米空母部隊が海域に来るまでに時間がある」と南雲は考えた。現実には米海軍部隊は日本の作戦を読んで近海に出撃していたのだが、その姿を確認するのが遅れる。南雲の頭には島の空爆しかなかった。
 
 ミッドウエー島への第一次攻撃隊は空爆に成功したが、滑走路の破壊が十分ではなく、第二次攻撃が必要となった。南雲は敵空母出現に備えて魚雷を装着していた艦上攻撃機の装備を陸上攻撃用の爆弾に付け替えを指示した。付け替えが完了したと思うと、「空母発見」の索敵情報が入る。再び魚雷に装備変更している間に、敵空母から発進した攻撃機が襲いかかってくる。甲板上は火の海となり、3隻が大破、沈没、のちに残る一隻も沈んだ。
 
「空母炎上」の報告を大和艦上で受けた山本は、「上陸作戦中止」を命じた。
 
 決断を生かすのは「周知徹底」
 敵空母出現を聞いた第二航空戦隊司令官の山口多聞少将は、南雲に「陸上攻撃装備のままでいいから直ちに空母攻撃に発進すべし」と具申するが聞き入れられなかった。戦闘では先手必勝が原則だが、南雲の判断を鈍らせたのはどうしてか。
 
 五月末、広島出撃前に山本は、南雲にきつく言い渡している。
 
 「この作戦はミッドウエーを叩くのが主目的ではなく、そこを衝かれて顔を出した敵空母を潰すのが目的なのだ。決して本末を誤らぬように」
 
 一方で、同月5日に発令された陸海軍合同作戦の命令書では、作戦目的としてこうある。
 
 〈ミッドウエー島を攻略し同方面よりする敵国艦隊の機動を封止し、兼ねてわが作戦基地を推進するにあり〉
 
 協同して戦争を指揮する陸軍と海軍の間で食い違う作戦の主目的。これで作戦計画が司令官から一兵卒まで徹底されるわけがない。敗北の責任は、ひとり南雲の逡巡と誤判に帰するものではないのだ。
 
(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
 
 
※参考文献
『山本五十六の真実』太平洋戦争研究会編、平塚柾緒著 河出文庫
『失敗の本質』戸部良一ら共著 中公文庫

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