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逆転の発想(24) 組織改造は人事から(鉄道院総裁時代の後藤新平)

指導者たる者かくあるべし

 「大風呂敷」と呼ばれた男
 医師出身で、官僚として台湾総督府民政長官、満鉄初代総裁をつとめた政治家の後藤新平は、どこでも気宇壮大な理想を掲げ、その実現にむけて邁進した。あまりに壮大な理想は、同時代においては理解され難く、「大風呂敷」とあだ名された。
 
 しかし、その理想は、例えば世紀を超えて実現した新幹線網など時代を先取りしていた。時代が後藤に追いつかなかったのである。
 
 その彼は、組織の宿命としての官僚化と政争利用の弊害をだれよりも知っていた。その弊害は、国家組織だけでなく人が集まればどこにでもはびこる宿痾(しゅくあ)だ。彼はその悪弊を乗り越える処方箋を、実践を通じて見事に示した。リーダーのあるべき姿を見てみよう。
 
 鉄道改革のための〈課長中心主義〉
 1908年(明治41年)、第二次桂内閣が誕生すると後藤は満鉄総裁の手腕を買われて逓信大臣に抜擢され、五ヶ月後に創設された鉄道院の総裁を兼任した。最大の課題は明治維新後に各地で民営会社として発展してきた鉄道事業の国営化発展だった。形の上ではようやく国有化されたが、いまだ17の会社に別れたままで、いかにして有機的な一つの事業体として統合するかにあった。
 
 組織が肥大化すると必然的に官僚化は避けられない。官僚化とは、上意下達の組織運営の中で、各現場が判断を避けて、責任を上部に押し付ける無責任体制である。
 
 総裁に就任した後藤は、組織改革の方針を打ち出した。五項目からなるが、その眼目は〈課長中心主義〉だった。
 
 通常の組織運営では権限と責任は上に重く下は軽んじられるが、後藤はこれを排した。上下のかなめとなる課長・係長クラスに優秀な人材を登用し、実務運営上の権限と責任を集中したのだ。上司依存、指示待ちの組織運営の無駄を省く狙いがあった。合わせて時間ばかりかかる稟議制もなくした。
 
 これによって、上司の役割を軽視したわけではない。逆に部長、局長級を決済官としての形式的仕事から解放することで、より広い視野に立った事業指揮にあたらせることができるようになる。常識的な官僚ヒエラルキーに慣れた組織は劇的に活性化された。
 
 
 現場第一主義
 合わせて、後藤は〈現場第一主義〉と〈適材適所〉を打ち出した。彼は言う。
 
 「社会公衆に直接して執務する方面に、俊材を置くを可とする」。下に重く上に軽い組織に組み替えた。
 
 適材適所については、特別な技能を持ちながら何の関連もない部署を「経験のため」に渡り歩くことになる官僚的人事の悪弊は、今でもまかり通っている。身の回りにあるだろうことはよくご存知のはずだ。
 
 彼は、これに「能力給制度」を組み合わせることで現場の努力に報い士気の高揚を図った。現在の組織改革の要点は大方、すでに110年以上前に後藤によって打ち出されているのに驚く。
 
 こうした組織改革を進めながら、彼が鉄道院総裁として取り組んだのは、輸送力の増強だった。英国の指導で全国に張り巡らされてきた狭軌の鉄道網の広軌化を目指した。
 
 しかし、当時、鉄道事業は政争の具であった。政治家たちは、広軌化に資金を注ぎ込むよりも、「わが選挙区に鉄道路線を」と「我田引鉄」と呼ばれる誘致に血道をあげ、広軌鉄道計画を推進する後藤は、追われるようにして三年で鉄道院を去る。
 
 後藤が総裁就任に際して〈官僚主義〉とともに危惧した〈政争の具となる危険〉からは逃れられなかった。
 
 余談であるが、わが国で鉄道広軌化が実現するのは、1964年、東海道新幹線の開通まで待たねばならなかった。政治生命をかけてそれを推進したのは、後藤新平指導下の鉄道院で薫陶を受け、同じ挫折を味わった十河信二(第4代国鉄総裁)の執念によるものである。
 
(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
 
※参考文献
『後藤新平』北岡伸一著  中公新書
『有法子 十河信二自伝』十河信二著 ウェッジ文庫

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