北朝鮮の朝鮮労働党委員長の金正恩(キム・ジョンウン)が電撃的に中国を訪問し、国家主席・習近平と会談した。電撃的と書いたが、北朝鮮としてはシナリオ通りの行動だ。
中国新華社通信は、金正恩が、「朝鮮半島の非核化に積極的に取り組む意思を明らかにした」と報じた。「核放棄」ではなく、「半島の非核化」である。これまで書いてきたように、北朝鮮に核放棄の意思はない。「核武装を完成させたわれわれに核放棄を求めるなら、高くつくよ。在韓米軍の撤退が入り口だ。さあ交渉してみようか」という高飛車な対米姿勢のままである。驚くにあたらない。
「5月までに開催」と、米国大統領のトランプが応じた米朝首脳会談を前に、韓国を抱き込み、準備の仕上げとして強力な中国カードを突きつける。半島をとりまく複雑な外交関係を読んでの北朝鮮のしたたかな外交戦略だ。
事態を動かし始めたのは、北朝鮮への軍事攻撃も辞さないトランプの圧迫政策だ。北朝鮮は自らの体制崩壊を招く対米戦争だけは避けたい。
その思いは中国も同じだ。北朝鮮がしゃにむに進める核開発で中国は面子を潰された。しかし、中国の安保戦略では北朝鮮という国家は存続しなければならない。米軍が駐留する韓国との間で緩衝地帯としての北朝鮮の存続は必須だ。北朝鮮が消滅して鴨緑江をはさみ米軍と直接対峙したくない。
もし米国が北朝鮮の核放棄に向けて軍事オプションを選択するなら、中国としては、先手を打って北朝鮮から金正恩を排除し、中国寄りの政権樹立に動かざるを得ない。
それを察知した金正恩は、中国寄りの側近で叔父の張成沢(チャン・ソンテク)を粛清し、兄の金正男(キム・ジョンナム)を暗殺した。中国の思惑(クーデター)の排除に向けた一連の動きだ。とって変わるリーダー候補を消してきた。
そして何食わぬ顔で習近平と金正恩は北京でにこやかに握手する。それが外交だ。
米国のトランプはどう動いたか。米朝首脳会談を準備しつつ、対話重視派のティラーソン国務長官を更迭して、タカ派のポンペオ(CIA長官)を後任に据えた。さらに国家安全保障問題担当補佐官に、超強硬派のボルトンを迎え入れた。
「これが最後のチャンスだよ」と、軍事攻撃をちらつかせながら金正恩に最大限の圧力をかけ続けているのだ。
さらに米国は中国に対しても輸入品関税を引き揚げる貿易戦争をしかけている。中国は米国に、「そんなことして北朝鮮の核開発を止められるんですかね」と反発を強めている構図だ。