menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

経済・株式・資産

第26回 企業経営に制約条件はないことを教えてくれる経営者「寿スピリッツ」

深読み企業分析

私が寿製菓(当時)を米子に訪問したのは20年ほど前のことであった。当時の主要業務はおみやげお菓子の製造販売である。米子に着くと、まず寿城という城に案内された。城と言っても要は販売店なのであるが、観光バスで連れてこられれば、皆びっくりするような本物の城である。その後、本社工場を見学し、事業についての説明を受けた。
 
どこの観光地にもあるお土産のお菓子を製造販売する会社であるが、全国各地の特徴あるお菓子を米子の工場で生産し、当該地域のお土産店で販売している。たとえば、山梨県であれば山梨のももやブドウを米子まで持ってきて、お菓子を作り、販売子会社を通じて山梨で販売していた。
 
販売子会社は各地にあり、菓子箱の裏には販売子会社の住所は入るが、製造場所は記載されない。まさか、買う人は米子で作っているとは思わず、裏面を見て住所を確認して安心して買って行く。当時は、妙に感心した覚えがある。また、東京ではサンリオのキティちゃんの人形焼を販売しており、大人気であった。それなら、東京だけではなく、全国で販売したらどうなのか尋ねたところ、東京でしか買えないから売れるのだと、という社長の答えに妙に納得した。
 
fukayomi26no1.jpg
 
もっとも当時は100億円ほどの売上高で、営業利益も1-2億円の会社であり、事業が将来的に成長してゆくようなイメージも描けなかったことから、上場しているけれども零細企業という位置づけで、レポートも書かずに終わった訪問となった。ただし、今でも鮮明にその時のやり取りや社長の話が頭に残っており、ずっと気になる会社ではあった。
 
そして、2-3年前に気づいたときには社名も寿スピリッツと変わっており、しかもこの10年ほどで利益水準が10倍を超える会社となっていた。調べてみると、かつての主要事業のお土産お菓子は今でも売上面では主要事業であり、利益面でもそれなりに成長していたが、売上高と利益の両面でトップとなっているのは別の事業であった。
 
それは、かつての訪問後の1990年代末から始めた、各地で展開するおみやげ店であった。その代表的な店舗は、1998年に北海道小樽市に開店した洋菓子店「ルタオ」である。ルタオのチーズケーキ「ドゥーブルフロマージュ」は今や北海道のお土産として1、2位を争う存在ともなっている。また、楽天のネット販売でも人気商品である。
 
すでにこのルタオを運営するケイシイシイは同社の利益の50%ほどを稼ぐビジネスに育っている。ケイシイシイではルタオのブランドで東京・表参道に高級アイスクリームケーキの専門店「グラッシェル」を開店。ただし、この辺りはおみやげお菓子のコツにこだわり、北海道で扱っているチーズケーキそのものは北海道限定をかたくなに守っている。
 
このほかにも別会社でフレンチトーストの専門店や、天ぷらせんべい、メープルフィナンシェなどの専門店を展開している。
 
また、最近ではインバウンド需要に対応し、主要な駅、空港での展開も強化し始めた。そのための新たなブランドを構築中である。
 
有賀の眼
 
同社のビジネスはお菓子という点では確かに共通しているが、よくよく考えれば、従来のお土産菓子のビジネスと新たに始めたビジネスは全く性格の異なるものである。従来のお土産お菓子はどちらかといえば、目先を変えてゆく形である。しかし、新たに始めたビジネスは、ブランドを構築して長期に販売して行くものである。
 
おそらく、お土産お菓子を販売しながら、同じ市場で長期に売れる定番品をうらやましく思っていたのではないだろうか。いくらでも例を挙げればきりがないが、代表のうちのいくつかを上げれば赤福とかうなぎパイ、仙台の萩の月などであろう。しかし、用いるノウハウは全く別物であり、そこに壁を感じてもおかしくはなかった。
それにもかかわらず、その壁をこじ開け、しかも全く新しい形で、ワンランク上のビジネスモデルを作り上げたのではないだろうか。
 
同社を見ていると、ビジネスにおいては本質的には壁なんてないのではないか。全く自由なのではないか。どんな状況からでも、実はどんなビジネスでも始められるのではないかという思いを強くしたのである。
 
皆さんも、既成概念で壁を作っていないか、今一度考えてみてはどうでしょうか。
 

第25回 今後ますます重要になる、自らの強みの再考で収益性を高めるという考え方「ロックフィールド」前のページ

第27回 難しいと言われることの解決が強いビジネスモデルにつながる「トレジャー・ファクトリー」次のページ

関連セミナー・商品

  1. 社長のための「お金の授業」定期受講お申込みページ

    セミナー

    社長のための「お金の授業」定期受講お申込みページ

  2. 《最新刊》有賀泰夫の「2024年春からの株式市場の行方と有望企業」

    音声・映像

    《最新刊》有賀泰夫の「2024年春からの株式市場の行方と有望企業」

  3. 《シリーズ最新刊》有賀泰夫「お金の授業 企業の月次データで読む株式投資法」

    音声・映像

    《シリーズ最新刊》有賀泰夫「お金の授業 企業の月次データで読む株式投資法」

関連記事

  1. 第85回「上位企業をごぼう抜きにする力強い成長性」プリマハム

  2. 第88回「コロナの逆風をエネルギーに変えるしたたかさ」ビジョナリーホールディングス

  3. 第5回 工場で勝つ「プリマハム」

最新の経営コラム

  1. 楠木建が商売の原理原則を学んだ「全身商売人」ユニクロ柳井正氏

  2. 第10講 WILLとMUSTをCANに変える:配属に不満がある社員とどう関わるか

  3. 第147回『紫式部と藤原道長』(著:倉本一宏)

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 製造業

    第288号 モノづくりは、付加価値がつく瞬間以外は、運搬または停滞である
  2. 税務・会計

    第26回 人材開発投資で「労働生産性」と「収益性」を上げる
  3. キーワード

    第71回 仕事を体験できる場をつくる「フェニーズ」
  4. 社員教育・営業

    第48講 事例を使ってクレーム対応の間違いと、最善の対応を学ぶ  筆者体験事例(...
  5. 人間学・古典

    第27話「日本人の信仰心」
keyboard_arrow_up